プロレスラーは観客もつかむ
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2015年08月30日

真説・長州力 1951−2015
著者:田崎 健太
出版社:集英社インターナショナル
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784797672862
発売⽇: 2015/07/24
サイズ: 20cm/491p
真説・長州力 1951−2015 [著]田崎健太
昭和も終わりに近い1982年、「かませ犬じゃない」という名セリフを吐いたとされる長州力。「ここではないどこか」を、常に求めているように見えたプロレスラーだ。
長州は山口県の在日家庭に生まれた。レスリング選手として高校時代から活躍し、専修大学在学中には韓国代表で五輪に出場。プロレス入りした時には、競技者の強さをすでに身につけていた。だが、それだけでプロレスラーにはなれない。長州によれば、観客を捕まえることができるかどうかで決まる。「感情をどれだけ出せるか」とも語る。
そばには「指の第一関節だけで苦しみを伝えることができる」カリスマ、アントニオ猪木がいた。強い磁場のような力が長州のプロレス観と行動に絡みつき、揺さぶった。
最近のプロレスブームの担い手「プ女子」を興奮させるのはもっと明快なファンタジー。鬱屈(うっくつ)した闘志を見せつけてきた「革命戦士」長州のたたずまいとは隔たりを感じる。昭和は遠くなりにけり、か。
鈴木繁(本社編集委員)
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集英社インターナショナル・2052円