コロンビアの作家ホルヘ・フランコさんが初来日した。ラテンアメリカ文学の新世代を担うひとり。暴力と愛が絡み合う濃密な作品世界には、故郷をめぐる厳しい現実が投影されている。
1962年コロンビア・メデジン生まれ、首都ボゴタ在住。邦訳は2003年の『ロサリオの鋏(はさみ)』(河出書房新社、品切れ)、近年は12年『パライソ・トラベル』(河出書房新社)、今年2月に『外の世界』(作品社)が出た(いずれも田村さと子訳)。
若い男女が米国に密入国する『パライソ・トラベル』は、原書の出た01年当時のコロンビアの現実が書かせたという。過酷な旅の果てに、主人公と恋人は小さな部屋にたどり着く。疲れ切った2人は口論に。見慣れぬ街に飛び出した主人公は道に迷い、恋人のもとに戻れなくなってしまう。
ニューヨークに2カ月滞在して移民のインタビューを重ね、物語に描いた長距離のバス移動も体験した。「ビザなしで米国に行こうとも思ったのですが、踏みとどまりました」
命の危険を冒してなぜ向かうのか。彼らの背中を押すのは故郷の貧困と絶望だ。「南米には今でもアメリカンドリームという言葉があります。危険がつきまとい、入国した後も悲惨な暮らしが待っている。夢ではなく悪夢だと、あとになって多くの人が気づくのです」
『外の世界』は、子ども時代を過ごしたメデジンで実際に起きた誘拐事件をもとにした長編。「コロンビアで誘拐事件は非常に多く、大きな問題でした。静かで住みやすいメデジンはこの事件にショックを受け、暴力の街に変わってしまった」
犯人グループは暴力的で貧しく、しかしそのやりとりにはユーモアが混ざる。誘拐された男の娘が森の中で幻想に包まれて過ごす様子が、並行して描かれる。「ファンタジーの要素を取り込むことはフィクションの基本です。実際の出来事が起点でも、それを自分のものにして物語を作っていくことに喜びがある」
ガルシア・マルケスにバルガス・リョサ、フリオ・コルタサル。南米から世界文学の巨大な担い手が輩出してきた。フランコさんを第2のマルケスと呼ぶ声もある。「小説を書き始めたとき、南米文学はブームになっていて、世界が見る目も変わっていた。大きな作家たちの新しい語りや書き方を採り入れている。これからもずっとコロンビアを書き続けていく」(中村真理子)=朝日新聞2018年6月6日掲載
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