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「シャルル・ドゴール」書評 外交や歴史観、底部から分析

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2013年09月29日
シャルル・ドゴール 民主主義の中のリーダーシップへの苦闘 著者:渡邊 啓貴 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784766420456
発売⽇: 2013/07/14
サイズ: 20cm/382p

シャルル・ドゴール―民主主義の中のリーダーシップへの苦闘 [著]渡邊啓貴

 フランス人ジャーナリストとの対話で、彼がドゴールに批判的な言を吐いたのに応じて、私も日本に伝わるその偏狭さを冷たく論じたら、彼はいきなり激怒して、「日本人に彼の批判は許さない」と言われたことがある。日米関係の主従の間柄に慣れきっている日本人に、ドゴールの存在など理解できまいとの意味が含まれていた。
 本書は日本人研究者のドゴールの評伝だが、単にその枠にとどまらず20世紀の二つの大戦とその後の国際社会での「ドゴール外交」や「ドゴール的歴史観」をその底部から分析、解説した書である。ドゴールの出自から死までの歩みが、日本でも初めて紹介されるエピソードを交えて語られる。障害を持つ次女アンヌを慈しむドゴールの家族愛や自らの国葬を拒否するその人生観、さらには第1次大戦下の捕虜時代に脱走を繰り返す勇気などにふれながら、崇高なフランス、力強いフランスを自らの中に具現化しようと格闘し、そして20世紀のフランスを完整することにのみ人生を捧げた軍人政治家の誇り高き姿が活写されていく。
 ナチスに抗してロンドンにあって自由フランスを組織しつつもチャーチルを始めとして連合国指導者に嫌われ続ける。歴代のアメリカ大統領とは決して同調しない。戦後社会で政治家に転じ、その独自の戦略でドゴール外交を進めるのだが、著者は「ドゴール外交は単なるナショナリズムでもなければ、(中略)国益主義外交でもない。それはフランスという国家の威信を高めるための巧みな『演出力』そのものであり、リアリズムに裏づけられていた」と説く。この語が本書のモチーフと捉えるなら、第5共和制のドゴール政治、外交の本質がよく理解できる。
 現在、フランス人は、彼を「最も重要な歴史的人物」と評するが、日本でやっと正確に理解される書が誕生したとの思いがする。それが嬉(うれ)しい。
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 慶応義塾大学出版会・3360円/わたなべ・ひろたか 54年生まれ。東京外国語大教授。『ミッテラン時代のフランス』