「プライドの社会学―自己をデザインする夢」書評 所属の不安定化で源泉がゆらぐ
ISBN: 9784480015716
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サイズ: 19cm/247p
プライドの社会学―自己をデザインする夢 [著]奥井智之
プライドとは、個人的な満足によるものなのだろうか。それとも、社会的な評価を要するものなのだろうか。たとえば、尊敬される地位、高い学歴、美しい容姿……等々は、個人的な資源でありつつも、社会の中で他人にその価値を共有されねば評価されない。自分や自分が属すものへの評価体系。本書はそれをプライド・システムと呼び、一般には心理的な問題とされているプライドを、社会学的に問い直すことを眼目としている。
なるほどプライドとは、誠に魅力的で厄介な代物だ。たとえば、ジェーン・オースティン『高慢と偏見』の、「高慢」の原語はまさに「プライド」。「高慢」ならば悪徳だが、「自負」ならばどうだろうか。むしろ向上心の表れではないのか。この両義性を逆手に取るように、物語のヒロイン、エリザベスの自負は、ダーシーの高慢を凌駕(りょうが)し、ハッピーエンドに至る。
プライドの源泉は一見多様である。家族、地域、階級、容姿、学歴、教養等々。だがそれらは、総じて「わたしたち」意識で結ばれた所属集団=コミュニティーを基盤とする。それゆえコミュニティーこそがプライドの源泉だと本書は指摘する。昨今の社会状況を鑑みれば、家族、地域社会の解体、若年層の非正規雇用化などにより、個人の所属の基盤は多くの面で不安定化している。こうした事態が、個人のプライドの源泉をゆるがせる。
キャリアデザインなどに惹(ひ)かれる若者が真に求めているものも、実は「プライド」のデザインかもしれない。交流サイトなどの流行も、自己のプライドの源泉を他者からの評価に委ねる他ない現実社会の表象であるともいえよう。かつてサルトルは「他人という地獄」を論じたが、現代ではフェイスブックの「いいね!」に数量化された評価が、プライド・システムを補強するのか。なるほど、現代社会を読み解く最重要キーワードはプライドかもしれない。
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筑摩選書・1680円/おくい・ともゆき 58年生まれ。亜細亜大学教授(社会学)。著書『近代的世界の誕生』など。