萩谷由喜子「諏訪根自子」書評 ナチスから贈られた名器の謎
評者: 出久根達郎
/ 朝⽇新聞掲載:2013年04月21日

諏訪根自子 美貌のヴァイオリニストその劇的生涯 1920−2012
著者:萩谷 由喜子
出版社:アルファベータ
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784871985772
発売⽇:
サイズ: 20cm/294p
諏訪根自子 [著]萩谷由喜子
ショックだったのは、この人の死が半年もたってから報じられたことだった。それも外国の新聞が亡き人として取り上げていたため、確認して判明したのである。わが国では彼女は忘れられた「天才ヴァイオリニスト」だった。無理もない。若い音楽ファンでさえ、多く名前を知らない。独特の名は、根を養えば木は自(おの)ずから育つ、の意を込めて両親に命名されたという。
会社員の娘である。来日した大ヴァイオリニスト・ジンバリストにその才能を認められ、十歳の天才少女と一躍はやされる。十六歳でベルギーに留学、パリからベルリンへ。
ナチス政権下、宣伝相のゲッベルスから名器ストラディヴァリウスを贈られる。
戦後この一件が彼女を苦しめた。名器はナチスの略奪品と非難され、返還すべきとの声もあった。彼女は沈黙する。
本書は伝説の演奏家の初の評伝だが、根自子が大切に愛用した名器については、実妹が興味深い証言をしている。これも衝撃の意外さである。
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アルファベータ・2520円