哲学者の柄谷行人さんに「自分の考えが引かれていて驚いた」と聞き、野村総合研究所社長・此本臣吾監修「デジタル資本主義」(東洋経済新報社・1728円)を読んだ。
デジタル化がもたらす経済社会の変化を考える本だが、野村総研といえば資本主義を理論的に支える大手シンクタンク。その代表者が引用した柄谷さんの『世界史の構造』は「交換」に注目して資本が支配的な世界システムを超えていこうという本だから、確かに意外な取り合わせだ。
本書で着目するのは消費者が払ってもいいと思う金額と実際の価格の差、いわば「お得感」。この差がネットの無料サービスや価格比較で存在感を増し、従来の経済観がぼやけてきていると指摘している。
ネットでは見知らぬ人とのシェアが様々な形で広がり、貨幣を介さない場合もある。新しい「交換」のあり方だ。そこで柄谷さんの登場。デジタル化社会は、自らを生んだ資本主義を超えていくのかも。それがビジネスの視点から出てくるのだからおもしろい。(滝沢文那)=朝日新聞2018年6月23日掲載
編集部一押し!
- となりの乗客 タイプライターと共白髪 津村記久子 津村記久子
-
- インタビュー 「VTuber学」編著・岡本健さんインタビュー 歴史・哲学・ビジネス…研究することで見えてくる 篠原諄也
-
- 新作映画、もっと楽しむ 映画「本心」主演・池松壮亮さんインタビュー AIで亡き母と再会する時代「誰もが自分ごと」 根津香菜子
- インタビュー 小川糸さん「小鳥とリムジン」インタビュー 「人生、笑って終われたら勝ち」 清繭子
- インタビュー 「モモ(絵本版)」訳者・松永美穂さんインタビュー 名作の哲学的なエッセンスを丁寧に凝縮 大和田佳世
- トピック ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」が100回を迎えました! 好書好日編集部
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社