哲学者の柄谷行人さんに「自分の考えが引かれていて驚いた」と聞き、野村総合研究所社長・此本臣吾監修「デジタル資本主義」(東洋経済新報社・1728円)を読んだ。
デジタル化がもたらす経済社会の変化を考える本だが、野村総研といえば資本主義を理論的に支える大手シンクタンク。その代表者が引用した柄谷さんの『世界史の構造』は「交換」に注目して資本が支配的な世界システムを超えていこうという本だから、確かに意外な取り合わせだ。
本書で着目するのは消費者が払ってもいいと思う金額と実際の価格の差、いわば「お得感」。この差がネットの無料サービスや価格比較で存在感を増し、従来の経済観がぼやけてきていると指摘している。
ネットでは見知らぬ人とのシェアが様々な形で広がり、貨幣を介さない場合もある。新しい「交換」のあり方だ。そこで柄谷さんの登場。デジタル化社会は、自らを生んだ資本主義を超えていくのかも。それがビジネスの視点から出てくるのだからおもしろい。(滝沢文那)=朝日新聞2018年6月23日掲載
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