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絵巻伝本や社会組織の研究も

文化系統学への招待 文化の進化パターンを探る 著者:中尾 央 出版社:勁草書房 ジャンル:歴史・地理・民俗

価格:3456円
ISBN: 9784326102167
発売⽇:
サイズ: 22cm/213,9p

過去の歴史を推定する系統学の方法論を、文化構築物の時空的変化に適用できないか。系譜の復元に着目して文化進化をめぐる問題群を解決しようとする文化系統学は何をもたらすのか。文…

評者:川端裕人 / 朝⽇新聞掲載:2012年07月15日

文化系統学への招待―文化の進化パターンを探る [編著]中尾央・三中信宏

 系統樹と聞くとまず生物進化を想起する。共通先祖から枝別れしていく、樹(き)を思わせる図は有名だ。最近、系統探求の方法を生物以外に使う動きが盛んになり「文化系統学」の旗が掲げられた。
 注釈が必要だ。実は進化論より古くから別の分野で系統学があった。文献学や歴史言語学で磨かれてきた、写本や言語の系統を明らかにする方法がそれだ。それらは驚くほど似たものに収斂(しゅうれん)しており、一般的な科学の方法として認識すべきだという。
 アブダクションという推論法が重視される。手に入る限られた知識を、最もよく説明する理論を採用する。例えば恐竜の系統は既存の化石から推し量る。新しい化石が発掘されると、当然再検討される。物理法則的な厳密性には欠けるが、絶えず最良の仮説を探し、新しい証拠が出れば更新する点でやはり科学的だ。
 本書で語られるのはこの推論法を用いた多様な系統学。「百鬼夜行絵巻」研究では数ある伝本の絵画間距離を数値化し系統を解明した。DNAの塩基配列から系統関係を導く現在の進化生物学に似る。オセアニア社会組織の研究では、首長の有無など社会制度の複雑さの系統関係に切り込む。明治時代の「擬洋風」建築の系統の検討も興味深い。
 統一的視座の提供という意味で「系統樹思考」を示しつつ、系統樹の一般型はネットワーク型だとの指摘で「その先」を見据える。生物に交雑があるように、言語や写本にも別系統の合流があり、厳密な樹状にはならない。これをどう処理していくか……。
 評者は、編者が言う「文理の壁」の問題に惹(ひ)きつけられた。文化系統学は、現在、進化生物学の応用と考えられており「文側」への普及には壁を乗り越えなければならない。しかしもともと学問に「壁」などなかったと系統学の歴史が示している。壁を破壊してやろうという心意気も透けて見える。
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勁草書房・3360円/なかお・ひさし 日本学術振興会特別研究員 みなか・のぶひろ 農業環境技術研上席研究員。