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沢木耕太郎「月の少年」「わるいことがしたい!」書評 静謐で澄んだ色調の絵本

評者: 後藤正治 / 朝⽇新聞掲載:2012年06月03日
月の少年 著者:沢木 耕太郎 出版社:講談社 ジャンル:児童書・絵本

ISBN: 9784062173636
発売⽇:
サイズ: 22cm/76p

月の少年 [作]沢木耕太郎 [絵]浅野隆広/わるいことがしたい! [作]沢木耕太郎 [絵]ミスミヨシコ

 沢木耕太郎氏が絵本の原作を書いたと耳にし、手に取った。『月の少年』。冬(とう)馬(ま)は両親を海の事故で失い、彫刻家のおじいさんと湖の辺(ほとり)の家で暮らしている。学校には行かなくなった。満月の夜、湖上に浮かぶ小船に乗って笛を吹く少年を見かける。誘われ、やがて2人の乗る船は、母がいる月へと浮き上がっていく。もう戻れないのか、おじいさんに会えなくなるがそれでいいのか……。
 静謐(せいひつ)で澄んだ色調の絵本である。ほのかなメッセージが込められている。過ぎ行く時間が子供の傷を癒やし、やがてまた再出発のときが訪れる。大人たちは静かに時を待てばそれでいいのだと。
 『わるいことがしたい!』は、微笑しつつページをめくった。いたずらっ子が好き放題に散らかし、さらに「もっとわるいことしたい!」と続いていく。いい絵本とはまず子供たちが喜ぶ本であろう。お母さんの眼鏡にかなうかどうかはともあれ、こっそり孫娘に手渡してやろうと思う。
    ◇
 『月の少年』1365円、『わるいこと』1470円・ともに講談社