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「乳白色の裸婦」生み出した画家の実像に迫る 「没後50年 藤田嗣治展」

《自画像》1929年 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館蔵 © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

 おかっぱ頭に丸メガネ、ちょびひげの画家と聞けば、すぐにその顔が思い浮かぶはず。人生の大半をフランスで過ごした藤田嗣治(レオナール・フジタ)が亡くなって50年となる節目の今年、「没後50年 藤田嗣治展」が東京・上野の東京都美術館で開催されます(7月31日~10月8日)。国内外から集められた主要作や、展示機会の少なかった作品など、100点以上の作品で画業を総覧する大回顧展。藤田の代名詞でもある「乳白色の下地」の裸婦像が10点以上そろい、こよなく愛した「猫」も画面のあちこちに。担当学芸員の下倉久美さんが選ぶ「藤田本」とは……。

  1. 藤田嗣治画集 「巴里」「異郷」「追憶」 [監修]林洋子
  2. 恐るべき子供たち [著]ジャン・コクトー
  3. 随筆集 地を泳ぐ [著]藤田嗣治
  4. 藤田嗣治手しごとの家 [著]林洋子

(1)「藤田嗣治画集」は、60年以上に及ぶ画業を、全3冊で概観する画集。「巴里」「異郷」「追憶」の3テーマで作品を見せながら、それぞれの時代の活動を解説します。「乳白色の下地」の最新研究のほか、フランスでの制作や、中南米や日本国内の旅、第2次世界大戦時に日本の軍部の依頼で描いた「作戦記録画」、晩年のキリスト教を主題にした作品まで、藤田の多面性が紹介されます。

 「藤田の画業をとらえるポイントが詰まっていて、画家を総観する上で非常に参考になる本です。監修の林洋子さんは藤田研究の第一人者。今回の展覧会の監修者でもあります。8章構成の本展の第1章『原風景』は、東京美術学校(現・東京芸術大学)で黒田清輝に学んだ藤田が卒業制作で描いた自画像から展示が始まりますが、この本にもその最初の自画像から晩年までの作品が紹介されています」

(2)詩人、劇作家、映画監督と多彩な顔を持った芸術家、ジャン・コクトーの代表作の一つである小説「恐るべき子供たち」。外の世界から閉ざされた子ども部屋で、2人だけで暮らす姉エリザベートと弟ポールの異常な愛憎が、悲劇的な結末をもたらすまでを、幻想的に描きます。

 「藤田は1913(大正2)年、26歳で渡仏します。パリでは、ピカソやブラックが興したキュービスムが主流を占めていたころ。藤田は多くの美術家や文化人、芸術家と交流しましたが、ジャン・コクトーもそのひとりです。この小説は、藤田がその代名詞の『乳白色の下地』による裸婦で大いに名をはせていた1929年に出版されました。後にコクトーが世界一周旅行をし、日本を訪れた際には藤田が東京を案内しました。その体験を含めたコクトーの日本旅行記『海龍』(1955年)では藤田が挿絵を制作しています」

《タピスリーの裸婦》1923年 油彩・カンヴァス 京都国立近代美術館蔵 © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

(3)文筆活動もした藤田のエッセーを集めた「随筆集 地を泳ぐ」。パリの生活や日本と世界の比較、南米を旅した話のほか、「私の仕事着」「土産品への希望」「びっくりした大金」などの雑記も収録されています。

 「この随筆集には、作品制作のこと、小説のようなものも入っていて、その頃の藤田の興味や思考が直接的に伝わってくることが、とても面白いと思います。本展のポスターに添えられている藤田の言葉『私は世界に日本人として生きたいと願う。』は、この本の中の『私』という7行のエッセーの言葉からひいています。日本とフランス、両方の文化を背景にして自分が成り立っているということと、一方だけの文化にとどまることなく、広い視野をもって活動していきたいという意志の表れとも読み取ることができるのではないでしょうか」

《エミリー・クレイン=シャドボーンの肖像》1922年 油彩、銀箔、金粉・カンヴァス シカゴ美術館(アメリカ)蔵 © The Art Institute of Chicago / Art Resource, NY © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

 パリに集まった多くの外国人芸術家が、自分ならではの表現を模索した時代。「エコール・ド・パリ」の中で、藤田も独自性を追い求め、「乳白色の裸婦」にたどり着きます。独自性と言えば、藤田のイメージから切り離すことができない、その斬新なヘアスタイルも気になるところ。

 「渡仏した翌年の1914年に第1次世界大戦が始まるんですが、日本からの仕送りがうまくいかなくなり、生活が窮乏する時期があったんですね。その頃に自分で髪を切りそろえて扱いやすくした説や、ギリシャ美術などの古典に学んでいたので、その影響でギリシャ風のヘアスタイルにしたという説があります。このおかっぱ頭に丸メガネ、ちょびひげ、ピアスといった、ひと目見たら忘れられない特徴的な風貌(ふうぼう)により、『あの乳白色の裸婦を生み出した画家』像を演出する狙いもあったようです」

(4)「藤田嗣治手しごとの家」は、絵画制作の合間を縫って、身の回りの日用品を手作りしていた、藤田の知られざる一面を紹介する本。アトリエの壁に施したステンシル、手彫りを加えた家具、ドールハウスのような模型など、自らあらゆるものを作ったプライベートの創作世界がのぞけます。

 「藤田は作品に合わせて、額縁も多数手作りしました。そのうちの1点、展示作品の『カフェ』は、窓の外にパリ風の街角が見えるカフェが描かれていますが、絵と呼応するように、額縁にもコーヒーカップやワイングラスが彫られています。藤田は晩年にフランス国籍を取得し、カトリックに改宗しました。その洗礼名が『レオナール』。今展に並ぶ『礼拝』には、マリア様の両脇で祈る自身と妻の君代さんの姿を描いています。画面の左隅には、終(つい)のすみかとなったアトリエも。そのアトリエの内部を飾る藤田の手仕事の数々も、この本では紹介されています」

《カフェ》1949年 油彩・カンヴァス ポンピドゥー・センター(フランス・パリ)蔵 Photo © Musée La Piscine (Roubaix), Dist. RMN-Grand Palais / Arnaud Loubry / distributed by AMF © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

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藤田嗣治画文集 「猫の本」 [著]藤田嗣治
 藤田と言えば猫、猫といえば藤田。「友達」と呼んで、愛し描いた猫たちを集めた画集です。藤田の肩越しに、ひょっこり顔を出す愛嬌(あいきょう)ある表情、安心しきった寝姿、怒りをあらわに跳ねる様子など、たっぷり130匹超。藤田が書いた猫にまつわるエッセーも収録しています。

《争闘(猫)》1940年 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館蔵 © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833