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「没後10年 古田足日のぼうけん」開催 代表作から未完の作品まで、子どもたちの生きる力を追い求めた足跡をたどる

「おしいれのぼうけん」草稿を初公開

 『おしいれのぼうけん』は1974年の刊行以来、世代を超えて読み継がれるロングセラー。保育園を舞台に、けんかして叱られ、おしいれに入れられた、さとしとあきらの手に汗握る冒険を描いた物語です。絵本としては長めの80ページというボリュームながら、多くの子どもたちを夢中にさせてきました。

 古田さん、画家の田畑精一さん、編集者の酒井京子さんが三位一体となって取材と話し合いを重ね、構想から完成まで3年をかけて制作されたという本作。展覧会では、その草稿が初公開されています。物語作りの出発点となった「がんばれ、手をつなごう」の言葉や、完成作からは消えてしまった宇宙船に乗る場面などからは、作品が構想された当時の思いやイメージが伝わってきます。また、草稿とともに保管されていたメモからは、多くの人の意見を取り入れながら丁寧に推敲を重ねた様子もうかがえます。

初公開となる『おしいれのぼうけん』草稿。草稿は数種類あり、最も完成作に近いもので原稿用紙78枚あった。神奈川近代文学館蔵=写真は同館提供

田畑精一さんによる『おしいれのぼうけん』ラフスケッチ(複写)。完成作にはない、幻の宇宙船が描かれている

 『おしいれのぼうけん』複製画(ピエゾグラフ)もあわせて展示。『おしいれのぼうけん』に次ぐシリーズ第2作として創作された『ダンプえんちょうやっつけた』(童心社)は、田畑さんによる原画のほか、モデルである宮城県石巻市のわらしこ保育園を取材した際の写真も見ることができます。古田さんの作品に描かれるリアルな子ども像は、入念な取材を経て生み出されたということがよくわかります。

子どもの成長を描いた「ロボット・カミイ」

田畑精一さんによる紙芝居版「ロボット・カミイ」シリーズ(童心社)

 『ロボット・カミイ』は、福音館書店から刊行された堀内誠一さんの絵本原画のほか、田畑精一さんが描いた紙芝居シリーズ(童心社)や、物語に登場する「ちびゾウ」のモデルとなったぬいぐるみも展示されています。

 「ちびゾウ」のぬいぐるみは、古田さんの長女誕生を祝して田畑夫人で人形作家の保坂純子さんから贈られた手作り品。古田・田畑コンビ誕生の記念すべき作品『くいしんぼうのロボット』(小峰書店)にも、「ちびゾウ」が登場しています。古田家・田畑家の写真は、古田さんの幼年童話の多くが、田畑さん一家との親密な交流から生み出されたことを物語っています。

『ロボット・カミイ』に登場する「ちびゾウ」のぬいぐるみ

 児童文学作家として創作を続ける一方で、児童文学評論家としても活躍した古田さんは、完成後の自身の作品も徹底して読み込み、考察していました。『ロボット・カミイ』について古田さんは、「『君たちはどう生きるか』を幼児の世界でぼくなりに再現してみようとしたもの」(『子どもの見る目を問い直す』から)と述べています。「自作を語る――『ロボット・カミイ』」と題した直筆原稿のそばには、1987年頃に入手して再読したと思われる岩波文庫版が付箋をいくつも貼り付けられた状態で展示されています。

子どもたちの新しい物語を追い求める

 本展ではそのほかにも、古田さんがライフワークとして取り組んできた未完の神話『甲賀三郎・根の国の物語』の資料や、初期の代表作『宿題ひきうけ株式会社』(理論社)をはじめとする、社会への疑問に向き合う子どもたちの姿を描いた作品群も紹介されています。古田さんがいじめや不登校といったテーマにも作品を通じて真摯に向き合っていたことがわかります。

 学芸員の大槻陽香さんが“いちおしコーナー”と薦めるのは、1960~70年代に古田さんが関わったSF絵本の数々の展示。並外れた読書家でもあった古田さんの自宅書庫には、SFの本ばかりを揃えた本棚がありました。古田さんが初めて本格的な創作に取り組んだデビュー作『ぬすまれた町』(理論社)もSF作品です。展示されているSF絵本シリーズには、筒井康隆さんや佐藤さとるさん、石ノ森章太郎さん、長新太さん、馬場のぼるさんらも参加しており、さまざまな作家や画家が子ども向けのSFという新ジャンルに挑戦していたことがうかがい知れます。

古田さんが関わった子ども向けのSF創作作品シリーズ

 作家として、また評論家として、子どもたちの生きる力となる新しい児童文学を追い求めた古田足日さん。早稲田大学童話会で連載していた同人誌や初期評論活動の資料も含め、総点数約300点で活動の足跡をたどります。会場は「港の見える丘公園」の一画、横浜ベイブリッジを見下ろす高台に佇む神奈川近代文学館。横浜観光も兼ねて訪れてみてはいかがでしょうか。

【好書好日の記事から】
累計250万部「おしいれのぼうけん」出版50年 「将来は働く女性が増える」物語の舞台は保育園に