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絵本「ぐるんぱのようちえん」ほか、堀内誠一さんが手掛けた多彩な仕事の数々 3つの「F」でひもとく展覧会が開催中

創刊号から手がけた雑誌「anan」の表紙がずらり

 「anan」「POPEYE」「BRUTUS」―― いずれもマガジンハウス(旧・平凡出版)が刊行する雑誌ですが、共通する点がもうひとつあります。創刊から現在に至るまで、ロゴが変わっていないのです。そのロゴをデザインしたのが、堀内誠一さん。『ぐるんぱのようちえん』を描いた絵本作家として堀内さんを認識していた方には意外かもしれませんが、堀内さんはグラフィックデザイナー、アートディレクターとしても類まれなる才能を発揮した人でした。

 本展では、そんな堀内さんの仕事を「FASHION」「FANTASY」「FUTURE」という3つのセクションに分けて紹介しています。会場に入って最初に目にするのが「FASHION」展。堀内さんが手がけた創刊から49号までのファッション誌「anan」の表紙が、壁にずらりと並んだ状態で出迎えてくれます。

『anan』の創刊号から49号までの表紙がずらり

 1970年の「anan」創刊にあたって、アートディレクターとして抜擢された堀内さん。その仕事はロゴや表紙のデザイン、誌面全体のアートディレクションに留まらず、コンセプト作りや企画編集、海外ロケのロケハンやカメラマン選びまで、多岐にわたったそうです。

 大きく引き伸ばして展示された雑誌の誌面の中には、堀内さん自身が撮影したという写真も数点。堀内さんが描いたパリのイラスト地図や、海外の絵本にも造詣の深かった堀内さんならではの世界の絵本を紹介する特集も見ることができます。

 斬新な企画や魅力的な特集で時代を切り開いた堀内さんのエネルギーを感じることのできる展示です。

9つの絵本をめぐる回廊でファンタジーの世界へ

 2つ目のセクションは、絵本作家としての堀内誠一さんの魅力を堪能できる「FANTASY」展。PLAY! MUSEUMの顔となる楕円の展示室で展開されています。

大男がお出迎えする「FANTASY」展。学研の月刊誌「よいこのくに」の作品「おおおとこのおくりもの」より

 幼い頃から絵を描くことが好きだった堀内さんは、14歳の若さで伊勢丹百貨店の宣伝課に就職してからも、家や画塾で絵を描き続けていました。初めて出版された絵本は、26歳のときの『くろうまブランキー』(福音館書店)。以降、デザイナーとして活動しながら絵本の制作も続けました。

 晩年、『ぼくの絵本美術館』(マガジンハウス)の中で「絵本作家の道こそ、運命が決めた本命だ」と語った堀内さんは、古今東西の民話や物語、科学絵本など、多数の作品を残しました。本展ではその中から、『くろうまブランキー』をはじめとする9作品をピックアップ。緩やかにカーブする回廊は作品ごとに仕切られ、絵本原画のほか、高さ3メートルの大型絵本パネルや映像、音楽や光の演出で、それぞれの絵本の世界に入り込めるよう工夫が凝らされています。

絵本デビュー作となった『くろうまブランキー』(福音館書店)の原画。堀内さんの絵本では唯一、油絵具が使われている

 注目したいのは、作品ごとに変幻自在に変化する堀内さんの画風。『くるみわりにんぎょう』(偕成社)は雑誌「anan」でも印象的に使われていたショッキングピンクを多用して、華やかな雰囲気に仕上がっていますが、宮沢賢治の『雪わたり』(福音館書店)では一転して、日本の昔話にマッチした色合いや筆づかいで雪国の子どもたちを描いています。

『くるみわりにんぎょう』(偕成社)より

宮沢賢治の『雪わたり』(福音館書店)は映像で楽しむことができる

 1972年、月刊絵本「こどものとも」200号を記念して刊行された『てがみのえほん』(福音館書店)は、魔法の国や童話の国からお祝いの手紙が届くという設定で描かれた、パロディ精神あふれる一冊です。お菓子の家の魔女や巨人国のトロル、もじゃもじゃペーター、ピノキオなどが、それぞれに合った画材と画風で豊かに描き出されています。お祝いにみんなでぐりとぐらのカステラを食べるラストシーンには、堀内さんが描いたぐりとぐらや、だるまちゃんの姿も! 絵本ファンは必見の原画です。

『てがみのえほん』(福音館書店)より。すぐ目の前には手紙の送り主が登場する絵本を集めたコーナーがあり、手にとって読むことができる

 「FANTASY」展の中央で待っているのは、今年4月に刊行60周年を迎える『ぐるんぱのようちえん』の祝祭広場。PLAY! MUSEUM広報の草刈千優さんによると、『ぐるんぱのようちえん』の絵を描いていた当時、アートディレクターとして多忙を極めていた堀内さんは、週末を絵本の仕事に充てていたそうです。『ぐるんぱのようちえん』は土日2回分の4日間で描き上げたというのだから驚きます。原画をじっくりと味わったあとは、広場中央の大きなぐるんぱ像と記念撮影するのもおすすめです。

『ぐるんぱのようちえん』(福音館書店)の祝祭広場。ビスケットやお皿を頭の上にのせた立体のぐるんぱと出会える

110人が選んだ「私の好きな堀内さん」

 最後を締めくくるのは、堀内さんを慕う110人が推薦した作品を、推薦人によるコメントを添えて展示する「FUTURE」展。作品は年代順に並んでおり、雑誌や絵本、絵画、リトグラフ、イラスト、ポスターや装丁のデザイン、旅行記やエッセイなど、堀内さんがいかに多種多様な仕事を幅広く手がけていたかがよくわかります。

 参加者は林明子さんやスズキコージさん、降矢ななさん、junaidaさんら絵本作家のほか、俳優、歌舞伎役者、編集者、ブックデザイナー、エッセイストなど多方面にわたります。誰がどの作品からどんな影響を受けてきたのか、作品と言葉を見ていくことで、堀内さんの仕事ぶりや人柄が浮き上がってくる展示です。

 堀内さんが亡くなった際に谷川俊太郎さんが贈った言葉や、安野光雅さんによる堀内さんへの弔辞も読むことができます。

ブロックの中央には、堀内さんが亡くなった際に谷川俊太郎さんが贈った言葉の一節が

  ショップには、堀内さんが暮らしたパリや旅のエッセンスを取り入れた雑貨、絵本のイラストをあしらったステーショナリーなど、展覧会限定のグッズも充実。公式アートブック『世界はこんなに 堀内誠一』(ブルーシープ)には、展覧会では未公開の作品も含め、約100点の絵や写真が堀内さん自身の言葉も交えて掲載されています。

PLAY!SHOPには魅力的な展覧会グッズが並ぶ

 展覧会期間中、PLAY! CAFEでは「ぐるんぱの祝祭プレート」や「ふらいぱんじいさんのオムライス」など、オリジナルメニューを提供。料理を待つ間、堀内さんの手がけた70冊以上の絵本や挿絵本、雑誌や旅行記などを読むこともできます。

 1987年に54歳の若さで逝去した堀内さん。その多彩な作品の数々は、今もなお多くの人の心を躍らせます。展覧会の開催は4月6日まで。春のお出かけに、立川を訪れてみてはいかがでしょうか。