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「女性の働き方」本でひもとく ヘンと声あげ、少しずつ前へ

国会近くで抗議する「オンナ・ハケンの乱」。派遣切りにあった女性らが「派遣法を修理しろ~」と替え歌でアピールした=2011年11月、東京・永田町

 DVを受けた女性が夫と別れなかった理由の1番目は「子どもがいるから」、2番目は「経済的な不安」だ(内閣府「男女間における暴力に関する調査報告書」2015年3月)。DV被害者の相談に乗ってきた私の実感でもある。ひとり親の苛酷(かこく)な実情を念頭におけば、自立できるか心配する相談者を安易に励ませない。離婚して就職できても、ほとんどはパートがやっとだ。
 その背景を、江原由美子氏が「見えにくい女性の貧困――非正規問題とジェンダー」(『下層化する女性たち』収)で指摘する。「男=家計の担い手・女≠家計の担い手」という標準の家族像のもと、男女の賃金格差や女性の非正規労働者比率の高さも問題視されないことがある。若年未婚女性の非正規労働者も、「親元にいる」として見過ごされる。だが、未婚率が上昇、高齢化する親に頼れない女性も増加している。「女≠家計の担い手」は、現実ではない。

「男並み」続かず

 正規雇用の会社を退職して後悔している女性に、「辞めなければ良かったのに」は禁句だ。問題は、再就職での正規採用が難しく、賃金が低くなって自立が困難だという女性の労働をめぐる社会構造にある。なのに、「辞めなければ」という言葉は、問題をライフスタイルをめぐる自己責任論に転じてしまい、「自立できない女」だと非難するかのようになってしまう。そして、差別的な雇用制度が不問にされがちになる、と江原氏は指摘する。
 夫のいる正規労働者の女性はどうか。01年の育児・介護休業法改正以降に就職した女性にインタビューした中野円佳氏の『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』(光文社新書・950円)は、「男並み」の仕事を志向した女性が辞めていくパラドックスを見いだす。育児などのケア労働を担わない「男並み」が当たり前の働き方だとみなす女性は、出産を機に「男並み」に働けなくなったからと退職する。夫の収入の方が多いと、妻が育休を取得したり退職したりする方が「合理的」となり、性別役割分担を固定することにつながる。

二択はおかしい

 女性の「活躍」を目指しつつ男性が家庭を顧みない状況が続けば、社会は崩壊するだろう。『男が働かない、いいじゃないか!』は、男性に家庭に費やす時間を増やそうと呼びかける。しかし「働くしかない現実」が夫にあるなら、「仕事と家庭の両立は無理」という悩みに夫婦で直面するだけではないか。個人の努力だけでは解決しない。同著は、部下のキャリアと人生を応援する上司(イクボス)を広げる試みを紹介する。
 『女性官僚という生き方』には、励まされる。超人的な女性官僚など参考にならないと思うかもしれない。だが、若い世代は、バリキャリ(バリバリのキャリアウーマン)かマミートラック(育児との両立を重視し昇進とは縁遠い働き方)の二択しかないのはおかしい、と模索している。本書は官僚3人の鼎談(ていだん)を収録、うち2人の上司・先輩が過労死している(!)。国会で質問する議員が省庁に行う「質問の事前通告」の対応で、みなが残業に悩んでいたことを知った彼女たちは、同僚たちにアンケートを実施。内閣人事局長に霞が関の働き方改革を提言した。霞が関でアウトサイダーだった女性だからこそヘンなことをヘンと気づき、アクションを起こす。それは、性別や子の有無にかかわらずより良い働き方につながる。
 イクボス、事前通告の改善など、生ぬるい? しかし、社会を変える万能薬を待っていてもしかたない。少しずつ励まし合ってアクションを起こしたい。=朝日新聞2016年6月12日掲載