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コミュニティの再生 豊かで魅力的な資源へ生かす道 饗庭伸

空き家を壊して地域の広場にした東京・日野のコミュニティ=2017年、饗庭伸さん提供

 コミュニティは呪文のような言葉である。社会学の専門用語だったこの言葉が人々の口に上るようになってから約50年たつが、「~センター」や「~デザイン」など、色々な言葉とくっつきながら、この言葉はちょっとよい世界に人々を導いてきた。そしてそこに「再生」がつくと、「なんかやってみようか」と人々の背中を押す実践的な言葉になる。

 人々が豊かな暮らしを送るために必要な資源を調達する場が都市である。そこで発達した調達の仕組みが政府や市場であり、コミュニティもその一つ。それは資源が政府や市場では調達できないときに期待されて登場する。

 その現状は、はっきり言ってぼろぼろである。コロナ禍の時にも役に立たなかった。アベノマスクはコミュニティではなく郵便を使って分配されたし、怪しい自警団に成り果てたコミュニティもある。しかし、まだ使える骨組みは残っており、何よりもこの言葉には、人々を明るく前に向かわせる力がある。だから「コミュニティの再生」なのだ。

150人と共に

 まずは、コミュニティが何たるか、その現在地を摑(つか)んでおこう。祐成(すけなり)保志・武田俊輔編『コミュニティの社会学』(有斐閣・3190円)は、その広がりを手際よくまとめた一冊。「社会学における~」ではなく「~の社会学」となっているところがみそで、コミュニティっぽい事象を、一つの定義でなく多義的に分析するもの。コミュニティの可能性を広げてくれる。正統な歴史を知りたい人には、日本が誇るコミュニティの仕組みを分析した玉野和志の『町内会』(ちくま新書・924円)もおすすめできる。

 次にコミュニティの再生に取りかかることにしよう。そこで最初に悩むことに「コミュニティの数は何人?」という問いがある。その時は人類学者のロビン・ダンバーが提唱した「ダンバー数」が参考になる。『友達の数は何人?』(藤井留美訳、青土社・2860円)では「気のおけないつながり」の人数は150人くらいであるとされており、その数がコミュニティを使って、確実に資源を交換、分配し、みんなで豊かになっていくことを実感できる規模なのだろう。

「空間」をもっと

 150人を豊かにするために使う資源を考えてみよう。それはお弁当でも肩たたき券でもよいのだが、都市計画家としては「空間」をもっと使ってみましょうと呼びかけたい。人口がどんどん減っているため、都市では空間が余りに余っている。空き家や空き店舗だけでなく、公共施設も、公園も、路上も余っており、それは魅力的な資源に化ける。その実践の書は多く、タイトルだけで楽しい気持ちになってくる。新保奈穂美『まちを変える都市型農園』(学芸出版社・2640円)、加藤優一『銭湯から広げるまちづくり』(学芸出版社・2200円)、田島則行『コミュニティ・アセットによる地域再生』(鹿島出版会・2970円)など。

 苦労してコミュニティを再生しても、時間が経つと使われなくなることは多くある。コミュニティはそもそも新陳代謝の速い暫定措置にすぎないのかもしれないが、少し深く根を張るにはどうすればよいか。その基層となるのは文化や歴史であろう。佐々木秀彦『文化的コモンズ』(みすず書房・4180円)は、図書館や公民館など地域にある様々な文化施設をコモンズとして一体にとらえるビジョンを示した一冊。また笠井賢紀・田島英一編著『パブリック・ヒストリーの実践』(慶応義塾大学出版会・4950円)で紹介されている、「災害伝承」や「住まいの記憶史調査」といった市民による歴史実践も大きなヒントを与えてくれる。一つ一つは小さいけど、全体としては途方もない取り組みが、私たちを、今よりは少し豊かな社会に連れていってくれるのだろう。=朝日新聞2025年7月12日掲載