ISBN: 9784103519614
発売⽇: 2018/06/22
サイズ: 20cm/297p
ノモレ [著]国分拓
文明を知らない未開民族の発見と接触の物語は、これまでにもテレビや本などで多く目にしてきたが、本書にはそれらと大きく異なる点がある。そしてそのことが、まるで上質な文学のような彩りを本書に与えている。
舞台は南米アマゾン。2010年頃からそれまでに確認されていない謎の先住民が姿を現すようになった。やがて村人が襲われ死者も出るに至り、ペルー政府は文明化した先住民の若きリーダー、ロメウに彼らとの接触を依頼する。
ロメウの胸にはある思いがあった。新たに姿を現した未開の民は、曽祖父が100年前に森の中で生き別れた仲間(ノモレ)の子孫かもしれない。
本書が未開の民を扱った幾多のノンフィクションと異なるのは、これがファーストコンタクトではなく、再会の物語である可能性を秘めているからだ。ロメウの視点を借りて書かれるのはそのためである。
今から約100年前、ゴム農園の奴隷として働かされていた曽祖父たちは、生き延びるためパトロンを殺して脱走、用心棒に追われ、森で二手に分かれる。曽祖父はその後500キロ離れたこの地に流れ着くが、別れた仲間たちの消息はわからないままだ。
「息子たちよ、友を探してくれ。ノモレに会いたい」
曽祖父の言い遺した哀切な言葉が胸に迫る。
ロメウが謎の先住民をノモレではないかと考える理由は三つあった。
・元々はアマゾンに存在しないバナナを栽培していること
・文明社会の病原菌への免疫を持っているらしいこと
・自分たちと似た言葉を話すこと
矢で武装した屈強な彼らとの接触は常に命がけだ。だが「ノモレ(仲間よ)!」という呼びかけに、彼らは呼応する。ロメウは彼らが曽祖父のいうノモレの子孫であるとの確信を深めていく。
ドラマチックな邂逅を予感させるが、そんな感傷では終わらないのが、この本の面白いところだ。ノモレが一筋縄ではいかないのである。会うたびに女たちを出せというノモレたち。それはむき出しの野生なのか、それとも家族付き合いをしたいという社交的な要望なのか。友好関係を築けていたはずが、突如村を襲うこともあった。そこには、われわれの理解を拒む異質な論理が垣間見える。もし彼らが本当にノモレなら、なぜこれほどまでに隔たってしまったのか。
ノンフィクションでありながら一人称で語らず、未開民族にまつわる稀有な物語でありながら、文明化した先住民側の苦悩をも同時に描く。著者の離れ業に脱帽だ。
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こくぶん・ひろむ 1965年生まれ。NHKディレクター。「隔絶された人々 イゾラド」などの番組を手がける。著書『ヤノマミ』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、大宅壮一ノンフィクション賞。