1. HOME
  2. コラム
  3. 選書往還
  4. 一流同士の対話に酔いしれる 「異分野対談で考え方を考える」本

一流同士の対話に酔いしれる 「異分野対談で考え方を考える」本

 気分で本を選べるブックサイト「好書好日」では、「考える」をキーワードに思索を深める書籍を随時紹介しています。本は、自らの思考を掘り下げていくだけではなく、別の視点から考えてみたり、頭をやわらかくして考えたりするための格好の手段です。異なる分野で一級の仕事をしている者同士の対談本から、そんな考え方のヒントを探ってみませんか。

  1. 「小澤征爾さんと、音楽について話をする」村上春樹×小澤征爾(新潮文庫)
  2. 「人間の未来 AIの未来」山中伸弥×羽生善治(講談社)
  3. 「共感のレッスン」植島啓司×伊藤俊治(集英社)
  4. 「雑談藝」いとうせいこう×みうらじゅん(文芸春秋)
  5. 「人間の建設」小林秀雄×岡潔(新潮文庫)

(1)小澤征爾さんと、音楽について話をする
 世界的に知られる小説家と音楽家が一緒にレコードを聴きながらクラシックについて語り合います。小澤さんの音楽的な言葉を、よりわかりやすい方向に「翻訳」して引き出していく村上さんの手つきが見事です。読み終えた後に思わず曲を聴きたくなる、クラシック入門にも最適の書。村上さんの対談本といえば、『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』もおすすめです。

(2)人間の未来 AIの未来
 ノーベル賞科学者と国民栄誉賞棋士が語るのはAI、そして近未来の人間社会です。コンピューターの将棋ソフトの指し方に始まり、AIだけではなく、人間に関する根本的な疑問にまで対話は広がっていきます。人間の持つ「ひらめき」「美意識」とは何なのか、それらを持たないAIとどう共存すべきなのか。思い切った仮説が飛び交う書ですが、AIに興味がある方なら必読です。

(3)共感のレッスン
 情報に囲まれるほど人は孤絶していくのではないか。そんな疑問をもとに、宗教人類学者と美術史家が展開するコミュニケーション論。人と人がつながりあうためには何が必要なのかを、「共感」をキーワードに遺伝子レベルから語り起こしていきます。脳、意識、身体、言語から生まれる記憶を、ネットという外部装置に頼るのではなく、いかに交歓しあえるのか…スリリングな対話が続きます。

(4)雑談藝
 活動の場は異分野なのに全く異分野感がないのはなぜ? 20世紀からサブカル街道をひた走る2人による、タイトル通りの雑談本です。たとえば、電池の「単」に関する導入から、+と-の話になり、やがてはネジの雄雌へ……と何の結論も出さないまま話題が転がり続けます。まるで連想ゲームのような雑談は確かに達人芸の域です。座持ちの下手な人は参考にしてはいかがでしょう。

(5)人間の建設
 時代をさかのぼって、昭和を代表する批評の神様と文系的数学者の対談です。修身の教科書のようなタイトルに臆することなくひもといてみると、2人の本業だけでなく、絵画や酒といった趣味嗜好から、時間や理性といった概念まで広がる対話は、雑談芸の極致ともいえる内容で、脳髄が痺れてきます。ちなみに「好書好日」のサイト名は、岡をモデルにした数学者を笠智衆が演じた映画「好人好日」をもじっています。