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その発想はどこから来たのか 異業種作家がつくったユニークな絵本

 「好書好日」では、近年の刊行ながら高い評価を得ている絵本を紹介する連載「えほん新定番」のほか、絵本に関する記事を数多く掲載しています。そのなかから、絵本とは異なる業界で活躍する人々が手がけた注目作を選んでみました。どんな思いから絵本づくりに携わったのでしょうか。

  1. 「100かいだてのいえ」(いわいとしお 偕成社)
  2. 「すきま地蔵」(文・室井滋、絵・長谷川義史 白泉社)
  3. 「アリになった数学者」(森田真生、イラスト・脇阪克二 福音館書店)
  4. 「えがないえほん」(B.J.ノヴァク、訳・おおともたけし 早川書房)
  5. 「このおに」(山崎静代 岩崎書店)

(1)「100かいだてのいえ」
 メディアアート界の第一人者、岩井俊雄さんが十進法につまずいた娘のためにつくった絵本です。主人公の男の子が100階建ての家に住む動物たちと出会いながら、1階ずつ最上階を目指していくおはなし。タテに開きながら読み進めるユニークなしかけは、さすがの発想で、「デジタル」の語源が「指(折り数える)」だったことを思い出させてくれます。

>「えほん新定番」いわいとしおさんの回はこちら

(2)「すきま地蔵」
 女優の室井滋さんは、すでに何冊もの絵本を出している絵本作家でもあります。そんな彼女が、現代版「幸福の王子」を書きたいとの思いをこめた新作。周りにビルが建ち並び、隙間から出られなくなったお地蔵さん一家におつかいを頼まれた「ボク」が、東西南北の町を駆けめぐります。登場人物(?)たちの優しさが心に沁みるおはなしです。

>「えほん新定番」室井滋さんの回はこちら

(3)「アリになった数学者」
 在野で数学の可能性を探究している独立研究者による思弁的な絵本です。ヒトが当たり前のように使っている「1+1=2」という数の営みが、自然界の他の生物にとってどんな意味を持つのかをアリの視点から想像していきます。数の世界に先入観のない子どもはもちろん、理解したつもりになっている大人にとっても、新しい発見を与えてくれる一冊です。

>森田真生さんのインタビューはこちら

(4)「えがないえほん」
 翻訳者であり、ミュージシャン、マジシャンでもある大友剛さんが、見た瞬間に驚いた本です。「絵本」なのに絵がない。ページをめくると「ばふっ」「ぶりぶりぶ〜!」といったおバカな言葉やオノマトペが次々と現れます。原作者はもともと米国で知られた俳優&コメディアン。いわば台本のように大人が読みきかせ、子供たちと笑い合うのに格好な絵本です。

>「えほん新定番」大友剛さんの回はこちら

(5)「このおに」
 南海キャンディーズの「しずちゃん」がボクサー時代の自身について描いた絵本です。「ホンットウに厭やった」と話す鬼コーチの故・梅津正彦さんとの出会いから、オリンピック出場を目指すための地獄の特訓、沸き起こる愛憎、そして別れまでの日々が、力強いセリフの数々とダイナミックな絵とともに展開します。最後に置かれた梅津さんの表情に、万感の思いがこもっています。

>山崎静代さんのインタビューはこちら