美術批評家の椹木野衣(さわらぎのい)さん(56)が、初のエッセー集『感性は感動しない――美術の見方、批評の作法』(世界思想社)を出版した。絵との向き合い方や文章術のみならず、青春期の思い出から育児まで、今の自分をかたちづくったものを率直につづった。
きっかけは、2012年に出版社のPR誌に書いたエッセー「感性は感動しない」が、30校近くの大学入試で取り上げられたこと。美術の枠を超えた手応えが新鮮だった。かねて批評の基盤には筆者の体験や人生観があると考えており、山と土に抱かれた秩父での少年期、外国の音楽にのめり込んだ10代、批評家としての「本の食べ方」「絵をまるごと呑(の)み込む」見方など「こんなに自分を出したのは初めて」という著作になった。
「感性は磨くもの」という思い込みを取り払い、「芸術における感性とは、あくまで見る側の心の自由にある」と記す。美術展の人気はSNSやテレビに左右されがちだが、「有名作品だから、権威が評価するから素晴らしいのではない。見ていいと思ったら、それについて考えるのが本来の作品の楽しみ方」と話す。これはほかの芸術表現でも言えることだろう。
多彩なテーマの中、大切なキーワードが「子ども」だ。自身は07年に子どもが誕生し、その「複雑な生命活動や固有性に比べたら、美術がみなつまらなく見えた」くらい、見方が変わった。むろん、年齢や子どものいるいないは関係ない。誰もがかつては子どもだったのだから。「芸術とは、自分の中にいる子ども、すなわちかけがえのない、自分が自分であることの芯になるものと出会い直すためにあるのではないでしょうか」(小川雪)=朝日新聞2018年09月5日掲載
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