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警察小説×探偵小説の「妙」 呉勝浩さん「マトリョーシカ・ブラッド」

呉勝浩さん

 江戸川乱歩賞でデビューした気鋭の作家、呉勝浩(ごかつひろ)さんが約1年ぶりの新刊「マトリョーシカ・ブラッド」(徳間書店)を出した。昨年発表した「白い衝動」(講談社)による大藪春彦賞受賞第一作。トリッキーな設定と二転三転する展開、重厚な読み味が共存する警察ミステリーだ。

>「マトリョーシカ・ブラッド」朝日新聞読書面書評はこちら

トリッキーな展開と重厚さ 共存

 神奈川県警の刑事、彦坂誠一は匿名の通報を受け、東京との境にある陣馬山中で白骨遺体を見つける。被害者は5年前、県警が組織ぐるみで隠した事件の関係者とみられ、傍らには血の付いたマトリョーシカがあった。続いて東京・八王子でも第2の遺体が発見され、そこにも絵柄の同じマトリョーシカが――。
 「まっとうな警察小説を書いてみたいっていうコンセプトがあったんですよ。いままでテーマとか、自分のなかでモヤモヤしてるものとかを前面に出していくような作品が多かったので、エンタメ小説をちゃんと書こうと」
 事件そのものを隠したい神奈川県警と、現場を分かつ警視庁との共同捜査は不協和音を奏でていく。組織のしがらみのなかでどう振る舞うか、というテーマも作品を貫く。「組織から抜け出すのは簡単なんですけど、そこを引き受けながら、どうやって自分の信念や正義を達成していくかっていうのは、すごく興味深い。我々とも決して無縁ではないと思うので」と話す。
 実社会に足場を置く一方、遺体のそばでマトリョーシカが見つかるという状況設定には、名探偵が颯爽(さっそう)と登場しそうな現実離れした雰囲気も漂う。「まさに探偵小説をずっと読んできた人間なので、感覚的にそれが奇異なことという認識がなくて」。担当編集者には「こんなこと起こんないよ」とも言われるが、「いや、俺の読んできた本のなかでは起こってきたからね、と思っちゃって」と笑う。
 設定や仕掛けは探偵小説、物語る手つきは警察小説。そのアンバランスさも作家としての武器だ。今年の山本周五郎賞で候補になった「ライオン・ブルー」(KADOKAWA)でも、田舎の交番を舞台にした泥臭い警察小説に、本格ミステリーの大仕掛けを施して高評価を得た。
 だが、「もちろんそこが自分の強みだとは思うんですけど、どっちのスタンスで読めばいいんだと思われるかたもいるかもしれない」とも。その上で、「理想を言えばやっぱり、呉勝浩という物書きの文脈を読んでもらえるようになれたら一番いい。カテゴリーを取っ払えるぐらいになれたらいいなと思います」。(山崎聡)=朝日新聞2018年9月10日掲載