3年前、選挙権年齢を18歳に引き下げた日本。でも、政治をどう考えるか、何を基準に投票するかなどを学ぶ「政治教育」は、ほとんど進んでいない。
「政治教育の先進国ドイツは日本との距離がありすぎて、リアリティーが持ちにくいようです。一方、近年は熱心ですが、歩みの遅かったオーストリアは、親近感を持てる『半歩先のモデル』です」と、早稲田大学教授の近藤孝弘さんはいう。
西ドイツのワイツゼッカー大統領が、過去と向き合う演説をした1985年。翌年、オーストリアでは、ナチス関与疑惑のあるワルトハイム大統領が誕生し、国際的な批判が高まった。党派を超えた危機感から、戦後国家のあり方への反省が生まれる。95年のEU加盟もあって、政治教育が本格的に始まった。
すでに92年、選挙権年齢を18歳に引き下げていたが、2007年には16歳に引き下げた。
「選挙権年齢の引き下げは、有権者を増やす民主主義の拡張です。政治参加と政治教育は、相互に支えあうものです」
16~17歳では、第1次大戦後の歴史を学習し、《学校の内外の事柄について自らの関心を貫徹するための民主的方法(たとえばデモ、署名活動、ビラの配布、請願書)を構想したり、実行したりすること》を学ぶ。
大学入学資格試験では、市議会選挙の四つの政党のポスターを示し、《共通しているテーマはなにか?》《それぞれのポスターについて……使用されているスローガンを分析しなさい》《どのようなターゲットが想定されているか》などと問う。
「政治状況を正確に把握し、そこに参画する能力を育てる教育が進められてきました」
近藤さんの研究の出発点は、82年の教科書問題だった。「中国や韓国では、自分とは違う歴史を学んでいるんだ」と気づいた。ドイツが隣国と歴史教科書の共同研究を進める過程を博士論文にまとめ、歴史教育、政治教育の研究を重ねてきた。
「日本は選挙権年齢を引き下げながら、政治教育を放置し、道徳教育に社会秩序の維持を期待しています。道徳で民主主義社会は作れません。必要なのは政治教育ではないでしょうか」(文・石田祐樹 写真・篠田英美)=朝日新聞2018年9月22日掲載
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