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「小さいひとたち」に心地いい絵本を作りたい  工藤ノリコさん「ノラネコぐんだん」シリーズ

シリーズ第1作、『ノラネコぐんだん パンこうじょう』より。毎回出てくるおいしそうな食べ物も魅力のひとつ

――8匹のノラネコたちが、毎回皆を巻き込む大騒動を引き起こす愉快な絵本シリーズ「ノラネコぐんだん」。第1作の『ノラネコぐんだん パンこうじょう』が2012年に出版されてから、『ノラネコぐんだん きしゃぽっぽ』『ノラネコぐんだん おすしやさん』『ノラネコぐんだん そらをとぶ』『ノラネコぐんだん アイスのくに』(いずれも白泉社)など次々と続編が作られ、今年の6月にはシリーズ累計100万部を突破。飛ぶ鳥を落とす勢いのノラネコたちだが、「ワルかわいい」キャラクターはどのように誕生したのか。

 「ノラネコぐんだん」の原点は、絵本にも毎回出てくる「ワンワンちゃん」の漫画なんです。ちょうど20年前、まだ絵本作家としてデビューする前、ワンワンちゃんが主人公の4コマ漫画を連載していまして。地方の就職情報誌だったので、彼がいろんなお仕事を体験するというのがコンセプトだったんですよ。ノラネコぐんだんは優等生のワンワンちゃんのライバル役として作ったキャラクター。物語にメリハリをつけてくれる名脇役なんです。

「ノラネコぐんだん」の元となった漫画『がんばれ! ワンワンちゃん』シリーズ。10月4日に電子書籍版が新たに発売された
「ノラネコぐんだん」の元となった漫画『がんばれ! ワンワンちゃん』シリーズ。10月4日に電子書籍版が新たに発売された

――漫画ではサブキャラクターだった「ノラネコ」たちが主人公になったのは、白泉社の子育て情報誌『kodomoe(コドモエ)』編集長、森綾子さんのアドバイスがきっかけだった。

 ワンワンちゃんシリーズの単行本の担当編集者だった森綾子さんがノラネコたちをすごく気に入ってくれて、「ノラネコたちが主人公の絵本はどうでしょう?」って勧めてくれたんです。

 森さんとはデビュー当時からのお付き合いです。内容の打ち合わせや制作の進行といった編集作業だけでなく、通常はデザイナーさんが担当するような絵本やグッズのデザインをほぼすべて手がけてもらっていて。ずっと、二人三脚で絵本を作ってきました。

担当編集者の森綾子さんが多くのグッズデザインを担当。ノラネコのキャラクターは男の子からも女の子からも人気
担当編集者の森綾子さんが多くのグッズデザインを担当。ノラネコのキャラクターは男の子からも女の子からも人気

――「一生懸命お仕事をするワンワンちゃんに、ノラネコたちが悪さする」という骨組みはシリーズを通して変わらない。一方で、1作目のパン工場をはじめ、蒸気機関車、回転寿司、無人島、アイスクリームパーラー……。毎回違った舞台が用意されるため、読者は飽きることがない。「ワンワンちゃん、今度は何のお仕事をするんだろう」など、親子で楽しみにしているファンも多い。

 元の漫画が掲載されていたのが就職情報誌だったから、その流れでワンワンちゃんには毎回違ったお仕事をしてもらっています。「今回はパン工場、今回はお寿司屋さん」と違うシチュエーションでも、お芝居の舞台がぱっと切り替わってゆくような感覚で小さい読者は自然に受け入れてくれているのかなと思います。

 絵本を親子で読んでいると、大好きなシーンは「ここ、もう1回読んで!」とせがまれることも多いと思います。小さいひとたちって、気に入ったところは何度も読むのが好きかなと思うので、自分が大好きなお話を繰り返し読むことで、安心感や心地良さを感じてくれているならうれしいです。

――子どもたちについて語るとき、印象的だったのは工藤さんが発する「小さいひとたち」という言葉。そこに感じるのは小さな読者を「子ども扱い」しない、フェアで温かな目線だ。

 小さいひとたちも大人である私たちも、物語を読んだときのうれしさや驚きは、何ら変わらない。でも「生理的に心地いいもの」に関しては、小さいひとのほうが直感的に優れていると思います。美しい余白のある空間やバランス、強弱、リズム――全身を使って毎日を力いっぱい生きている小さいひとたちにとって、重要なのはそういう部分じゃないかな。

 だから私もそういうリズムやバランスを大事にした絵本を作りたい。目指しているのは「起承転結」があって、緩急のテンポが心地いい絵本。絵もストーリーも、シンプルだけど起伏に富んだものが作りたいですね。

――今年5月に出版された『ノラネコぐんだんと海の果ての怪物』は、シリーズ初の長編。絵本を卒業した「小さいひとたち」に向けて書かれた、心躍る冒険物語だ。そして、待望の絵本新刊は10月4日に発売された『ノラネコぐんだん おばけのやま』。しばらくノラネコたちの快進撃は止まりそうもない。

 10月発売の新刊『ノラネコぐんだん おばけのやま』は、ワンワンちゃんのおだんご屋さんが舞台。これまでは「面白いシーンの断片」が先にあって、それがスムーズにつながるようにストーリーを練っていく、というやり方で物語を作っていたんです。今回はもうちょっとお話の構造自体を強くしたかったので、ストーリーの流れや展開を意識して作ってみました。

写真は新刊『ノラネコぐんだん おばけのやま』のラフ画。「文章を載せるバランスもこの段階でほぼ決めていきます」(工藤さん)
写真は新刊『ノラネコぐんだん おばけのやま』のラフ画。「文章を載せるバランスもこの段階でほぼ決めていきます」(工藤さん)

 今年、初挑戦したのが絵本を卒業した人たちに向けた長編『ノラネコぐんだんと海の果ての怪物』。小さいときは絵本を読んでいても、小学生くらいになると字の多い本は、読書感想文のような課題にならないと、なかなか読まなくなると聞きました。単行本は、ノラネコでは初めての文章メインの本なので、挿し絵や文字組みを工夫して読みやすくしています。「ノラネコぐんだん」の絵本に馴染んでいる小さいひとたちが、そのまま自然に本好きになって楽しんでもらえるように、これからも長めの物語を作っていきたいです。