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感動コンテンツに毒された社会

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月13日
不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか 著者:堀越 英美 出版社:河出書房新社 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784309027159
発売⽇: 2018/07/25
サイズ: 19cm/253p

不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか [著]堀越英美

 去年、小学生の娘の授業参観の「道徳」の授業を見たとき、先生の投げかけは必ずしも悪くはなかったが、教科書が誘導せんとする方向性にため息がでた覚えがある。本書は、そうした道徳教育のいかがわしさが、戦前「日本少国民文化協会」を引っ張っていたような人物に遡れること、彼らは戦後も教育界に残って道徳や国語教育に影響を及ぼしたことを明らかにしている。少国民文化協会の重鎮は、初期PTAの性格付けにも影響力をもっていた。PTA自体は戦後GHQが置かせた民主的組織のはずだが、中身はずいぶん日本風にできあがっている。今も多くのPTAで「みなさん入会されます」と非入会の権利が説明されないことが常態となっていたり、「今日決まらなければ明日も来てもらいます」と脅されつつ次期役員が決まっていく現状を思うと、さもありなんと納得である。
 二児を持つ著者による本書は、フランクな筆致で道徳教育や母性愛の歴史を丹念に遡ってゆく。論文や資料を読み込んで書かれた重厚な中身を、ツッコミを入れつつ読ませる力量はたいしたものだと思う。
 道徳以外のトピックも興味深い。危険性が指摘されながらも存続する組体操の起源が、戦地で崖などの高所へ上るとき有用な人間梯子のための兵式体操に遡れること。卒業式ではおなじみの、一人一言決められた「思い出」を語っていく「群読」スタイルの起源が、大政翼賛会文化部長だった岸田國士らが、愛国詩の朗読運動をすすめる中で生まれていたこと。これまた賛否両論ある「二分の一成人式」を推進するのは保守系教員団体であり、式の準備として教師による児童の作文書き換えを推奨していることなど、目を離せない話題が続く。問題含みのトピックに共通するのは、「感動」だ。日本社会がどれほど感動コンテンツに毒され、小さな声を聞き逃しているか、改めて考えさせられる本でもある。
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 ほりこし・ひでみ 1973年生まれ。ライター。著書に『萌える日本文学』『女の子は本当にピンクが好きなのか』。