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かぐや姫じゃなくって「かぐや彦」!? 「BL古典セレクション」シリーズ創刊!

文・写真:岩本恵美

古典×BLは偶然の産物だった

――古典とBLを掛け合わせるというユニークな発想は、どこから生まれたんでしょうか?

 実はこの企画は偶然できあがったものなんです。作家で歌人の雪舟えまさんの本を作りたいなと考えていた時に、左右社でA・ウェイリー版の『源氏物語』を日本語に訳し直した本を作っていたんですよね。その訳がとても面白くて。たとえば、光源氏を「シャイニング・プリンス」って、英語の表現を生かした形に訳してあって、まるで『ベルばら』みたいな形で『源氏物語』を読み直すという本なんです。あらためて、古典って面白いんだなと思いました。
 この『源氏物語』に、在原業平や『伊勢物語』の話も出てきていて、『伊勢物語』もこんな風に読みやすくて面白い現代語訳ができるんじゃないかなと、雪舟さんにお願いしてみたらどうだろうというのがそもそもの始まりです。

 ただ、2017年の終わりごろから、雪舟さんが男性カップルの「緑と楯」シリーズの執筆をメインにしていたことから、もしかしたら受けてもらえないかもと思いつつ、社長に相談しました。「緑と楯」シリーズは厳密にはBLというよりは男性カップルのお話なんですけど、社長にわかりやすいように「雪舟さんにお願いしたいんですが、いまBLをメインに書かれていて……」と説明したら、「BL訳にすればいいじゃん!」とすごく盛り上がって。こっちは「え?いいんですか……?」みたいな(笑)。

――最初の古典作品を『竹取物語』と『伊勢物語』の組み合わせにしたのは、どうやって決めたんですか?

 もともと「『伊勢物語』を現代語訳したら……」というところから始まっていたので、『竹取物語』が分量的にもセットにしやすいところがありました。あと、雪舟さんはSFっぽい作品も書かれているので、SF調の『竹取物語』は合いそうだなというのもありましたね。

古典もBLも想像を楽しむもの

――古文の授業以来、古典をほぼ読むことがなかった私でも楽しく読めました。イメージ的に古典にはもっと注釈や解説があるものなのかなと思ったのですが、そこはあえてそぎ落としているのでしょうか?

 「読みやすくて軽い」というのをコンセプトとして大事にしたかったんです。注釈がたくさんあると読んでいる時に気が散ってしまって、私もあまり好きじゃなかったというのもあって。とはいえ、注釈を入れないといけないような箇所もそんなになかったので、説明がいる箇所は文中に入れるようにしてもらいました。

――古典は現代人から見たら半ば外国語のようで、その解釈もさまざまです。一方のBLも二次創作や妄想から生まれる物語であり、どちらも想像の余地がかなりあるという点で似ている気がしました。『竹取物語』も『伊勢物語』も訳者である雪舟さんの妄想力が全開ですが、筒井さんがうなるような訳や心に残っている訳はどこですか?

 雪舟さんが、本当にこちらの思いもよらないことばかりを出してくるので、毎回ぶっ飛んでいたんですけど(笑)、最初にウケたのは『竹取物語』のここですね。

(原文)この世の人は、男は女にあふことをす、女は男にあふことをす。
(雪舟訳)この世とは、男が男に出愛い(であい)、結ばれる愛♥源郷(らぶとぴあ)。

原文では「人間の世では男は女と結婚し、女は男と結婚する」という意味。それを愛♥源郷(らぶとぴあ)って、と(笑)。こういうルビは『伊勢物語』の方がもっと遊んでいます。

 あと、今回作字もけっこうしていて、「嬬(つま)」や「嫁」といった女偏の漢字を男偏に変えているんですが、これも雪舟さんが出してくれたアイデアですね。雪舟さんから「変えられますか?」と聞かれて、「できると思います」と気軽に答えたんですけど、私がイラストレーターで画像を作ってゲラに載せるという作業で、けっこう大変でした(笑)。

 『伊勢物語』って、「むかし、おとこありけり。」という感じで、三人称でものすごく淡々と進んでいくんですけど、主人公の「おとこ」を「私」という一人称に変えたいというのも雪舟さんのアイデア。『伊勢物語』を訳すにあたって難しいのが、原文は「おとこ」と「おんな」という表記だけで、固有名詞が基本的には出てこないところです。BL化するとどちらも「おとこ」になって混乱するなと思っていたところに、「おとこ」を「私」にするアイデアを出してくださって、そう変えることで、ここまで物語として読んでいて楽しいものになるということは発見でした。

 それと、「友甲」「友乙」という表現も天才だなと思いましたね。甲、乙という言葉だけで、パワーバランスは同じ友だちなんだけど、区別がつけられるんです。

 あと私が好きなのは、少年の恋文を代筆する段。「藤原敏行」を「藤原★敏行(ふじわらのトッスィー)」と名付けていて(笑)、ここまで崩してもやっぱり『伊勢物語』になっているのがすごいと思いました。雪舟さんもおっしゃっていましたが、どんなに遊んでもびくともしないストーリーや味わいが古典にはあるのだと思います。

――訳文が遊んでいる分、逆に原文はどうなっているんだろうと気になりました。

 照らし合わせてみると面白いと思います。スタンダードな現代語訳と比べてみるのもいいかもしれません。
 大事にしているのは、BL化するけれども、二次創作というほどには変えないというところ。筋は変えないというのをルールにしています。やっぱり古典の面白さというものも崩したくないですから。
 「古典です」っていう格式高い感じからは離れているけれども、ちゃんとリスペクトは残しているつもりです。もともとの古典ファンには抵抗がある方もいるかもしれないですけど、いろいろある入り口の一つとしてはいいかなと思っています。

 最初、BL古典を企画したときは、社会的な意味は考えていなかったですけど、BLってフェミニズムや女性の人権問題にちょっと繫がっているのかもと思いました。「かぐや姫」が「かぐや彦」と男性になるだけで従来の「かぐや姫」とは受け止め方が違ったんです。
 古典では、男性と女性の役割みたいなものってどうしても揺るがないもの。従来のかぐや姫は可哀想で、そうした連綿と続く女性の扱いの延長線上に自分もいるように思えてつらく感じます。でも、これが男性のかぐや彦になると、かぐや彦が「結婚なんてしたくない」って言っているのが「凜としていていいな」と客観的に見られて、魅力的なキャラクターとして楽しめるんです。

社長のひと声でシリーズ化へ

――『竹取物語』『伊勢物語』の後には、『古事記』『怪談』が第二弾、第三弾に控えています。

 この企画が出たばかりのころは、企画自体は盛り上がったけど本当に中身が面白くなるかというのは確信が持てない状態でした。雪舟さんに『竹取物語』の序盤を試しに訳してもらって、私自身は面白いと思ったんですが、BLに対して漠然としたイメージしかない男性の社長がOKを出すのだろうかという不安がありました。でも、実際に見せてみたら、「むちゃくちゃ面白いから、シリーズ化しなければいけないと思う」と太鼓判を押してくれて、どんどん他のもやろうという感じで続刊となったという流れです。

――古典作品の採用基準は何かあるんでしょうか?

 古典作品の選定はけっこう難しいですね。最初はBLで全部できると盛り上がっていたものの、BLって「ラブ」じゃないとダメだと後になって気づいて。恋愛が入ってないとBLではない、ただの男たちの話になってしまう、と。しかも、男女の恋愛ものをベースに考えなければならないんですよね。井原西鶴の『男色大鑑』はもともと男色の話だし、『とりかへばや物語』という男女が入れ替わる古典は男同士だと面白さが成立しません。
 それと、分量的な問題もありますね。長すぎても短すぎても悩ましいところです。

――その後のシリーズの予定は?

 最初はとりあえず、この四作品で三冊と決めていて、その後はどんな方向があるか今いろいろ考えています。もし今後もできるようであれば、そんなに知名度がなくても面白い古典がたくさんあるので、そういう方向性でもいいかなと思っています。

装画も大事に

装画を担当したヤマシタトモコさんによる原画

――今回、ヤマシタトモコさんが装画を担当されています。

 装画はすごく悩みました。この本は私が面白いと思ったのと同時に、男性である社長も面白いと思ったものなので、何なら「家族で読めるBL」ぐらいにしたいと。全年齢、全性別対象みたいな、「開かれたBL」というのが方針でした(笑)。だから、普段はBLを全然読まないような男性や、ちょっと変わった古典を読みたいような方にも引かれないような絵にしたかったんです。
 とはいえ、BLファンの方にも「おっ」と思ってもらえるような方がいいし、内容にも合っている絵がいい。雪舟さんの文章がちょっとコミカルなので、シリアス路線だけの方は合わなさそうだなと思い、作風に幅があるヤマシタ先生にダメ元で依頼してみたところ、引き受けてくださりました。
 『古事記』も『怪談』も装画がすごい方々に決まったので、そこも楽しみにしていただきたいです。