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「農家女性の戦後史」書評 成長のしわよせに切実な投稿

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月27日
農家女性の戦後史 日本農業新聞「女の階段」の五十年 著者:姉歯 曉 出版社:こぶし書房 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784875593416
発売⽇:
サイズ: 20cm/295p

農家女性の戦後史 日本農業新聞「女の階段」の五十年 [著]姉歯暁

 1960年代は農家の主婦の万引きが多かったという。母乳が出ないがミルクを買えない、学芸会や運動会でそろえるべき物を買えない。その結果の万引きだった。これは中流農家にも多く見られたという。そこそこ余裕のある家でも万引きが起きた背景には嫁姑問題があった。自由になるお金がほとんどないという嫁の地位、姑に出費を言い出せず、言ってももらえないという状況が発生していた。さんざん働かされる一方で「血筋」からは外れ、土地の分与も稀な不安定な存在。嫁姑問題と単純に矮小化できない事態の根深さに気づかされる。
 高度経済成長を支えた労働力は、農村からの出稼ぎに大きく依存した。田畑を任された嫁たちは、家事に加えて農業の主体とならざるを得ず、耕運機使用による流産や農薬の影響をもろに受けた。「日本農業新聞」の投稿欄「女の階段」への投稿者たちへの著者のインタビューからは、農村史を眺めるだけでは浮かび上がらない女たちの切実な声が溢れている。
 アメリカと日本の財界の意を汲んだ国の農政にいかに農村が翻弄されてきたか、そのための手段がいかに姑息だったかということも本書では描かれる。「米よりパンを」と普及させたパン食は学校現場では「米ばかりをたべていると頭が悪くなる」と伝えられ、米輸入自由化の際は、都合よくデータを調整して公表した「物価レポート」で物価高が強調されて「消費者を守る」という建前が作られた。
 しわよせは都市よりは農村、男よりは女に行った。北欧型福祉国家では高齢者の自殺率が高いという誤情報と共に、独自の家族関係を強調する日本型福祉社会が叫ばれたが、1972年当時、実際に高齢女性の自殺率が最も高いのは日本だったという。ひどい話だがそれ以上に憂鬱になるのは、半世紀近く時がたっても、この国の行く末を握る政治家たちが同じような家族観を持っていることだ。
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 あねは・あき 駒沢大経済学部教授。著書に『豊かさという幻想』。共訳に『クレジット・クランチ』など。