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「芸術文化の投資効果」書評 芸術祭 地域の回復・再生に一役

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2018年11月03日
芸術文化の投資効果 メセナと創造経済 (文化とまちづくり叢書) 著者:加藤 種男 出版社:水曜社 ジャンル:経済

ISBN: 9784880654508
発売⽇: 2018/10/02
サイズ: 21cm/386,12p

芸術文化の投資効果 メセナと創造経済 [著]加藤種男

 「メセナ」と聞くと、ひと昔前の響きがある。バブルに沸いた時代の先入見だろうか。けれども本書を読むと、企業メセナは、その後の長期にわたる不況下でも途絶えることなく継続され、今ようやくその実を結びつつあることがわかる。
 以前との違いは、余剰を社会還元するだけではなくなっていることだ。もしもメセナが贅沢なら、真っ先に切られて仕方がない。文化は「金食い虫」だからだ。おのずと「経済」とは対立する。
 だが、著者が唱えるのは「創造経済」だ。前途の見えない時代だからこそ、企業にも新しい挑戦が必要となる。それなら、文化芸術と「企業」は相性がいいはずだ。芸術家はつねに未知の価値観を追求している。企業もこれまでにない視点を得ることができる。理想論だろうか? いや、100社を超える事例を挙げる本書には説得力がある。
 もうひとつの重要な論点は、このところますます盛んな「芸術祭」の動向についてだ。日本では、もともと文化芸術は生活に根付くものだった。それが近代化以降、お上から指導される「鑑賞」になってしまった。美術館から飛び出し、街や自然のなかで、土地の由来に耳を立て、住民の人たちと一緒になって作り出すアート・プロジェクトは、その点では新しいものではなく、この国の文化の本来のあり方に近い。
 だからこそ東日本大震災に関連し、まるごと一章を割いているのには注目だ。近年「乱立」する芸術祭を批判する向きがある。芸術を口実とする一過性の町おこしなら当然だ。ところが、土地に根付いた芸能と文化芸術の連携は、地域の復興に大きな役割を果たすことがわかってきた。
 今年は自然災害が相次いだ。「被災地」が、どこを指すのかわからないほどだ。芸術祭は、むしろ回復や再生とつながるかもしれない。本書は、文化芸術とその支援のあり方について、新たな眼を開かせてくれる。
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 かとう・たねお 1948年生まれ。クリエーティブ・ディレクター。アサヒ・アートフェスティバルなどを立ち上げた。