優れたエンタメ小説に贈られる第9回山田風太郎賞(KADOKAWAなど主催)に選ばれた、真藤順丈(しんどうじゅんじょう)さんの『宝島』(講談社)。10月26日に東京都内で開かれた会見に出席した真藤さんは、デビュー10年での快挙に「受賞は難しいと思っていた。感慨は大きい」と喜びを語った。
受賞作の舞台は、本土復帰前の沖縄。米軍の施設から食料や衣類、薬などを盗み出し、「戦果アギヤー」と呼ばれた若者たちの青春を活写する。米兵による事件や米軍機墜落事故などの実話も盛り込みつつ、住民の不満の高まりや、正面衝突へと至る「コザ暴動」へと突き進む姿を描く。選考委員の夢枕獏さんは「すごい熱量を感じた。計算ではない、感覚で捉えた文章は心地よく、うたう力の強さを感じた」と講評した。
デビュー当時から『地図男』でダ・ヴィンチ文学賞大賞、『庵堂(あんどう)三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞を受けるなど、注目を浴びていた。「物語の力を前面に押し出せる小説を」という思いが強くなりはじめたころ、沖縄というテーマに出会ったという。
物語のなかの政治的な色合いが濃くなるにつれて、自身が東京生まれで沖縄出身でないことに、ためらいを感じ始めたという。「現在の沖縄の問題と地続きですから。その時は(筆が)止まりました」
逃げようと思ったこともあるが、それは沖縄を「腫れ物」にすることであり、無関心をよそおうことと何ら変わらないと思った。「どの土地の、誰の話でも書いていいのが小説家。ただ、覚悟は必要。私の書いたことに沖縄の人々が何らかの違和感を覚えることがあれば、批判を引き受ける必要があると思う」
構想から完成まで7年。米国統治下という特殊な状況下で起きたことを普遍化するのは「外の人間だからできたこと」と思っている。「海辺に上がったクジラの生け作りを、1人で作った感じ。次回作は、もう少し小さな魚を、私自身が社会としっかりつながっているところで釣り上げてみたい」(宮田裕介)=朝日新聞2018年11月7日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 恩田陸さん「spring」 バレエの魅力、丸ごと言葉で表現 朝日新聞文化部
-
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 黒木あるじさん「春のたましい」インタビュー 祀られなくなった神は“ぐれる”かもしれない 朝宮運河
-
- 杉江松恋「日出る処のニューヒット」 諷刺の名手・柚木麻子が「あいにくあんたのためじゃない」で問うたもの(第13回) 杉江松恋
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- BLことはじめ BL担当書店員が青田買い!「期待のニューカマー2023」 井上將利
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社