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「老いも悪くないな」とか「乾物はいいな」とか感じてほしい 石川基子さん「ほしじいたけ ほしばあたけ」

文:柿本礼子、写真:鈴木啓太

落書きの中から生まれたキャラクター

――山に住む、ほししいたけの老夫婦。ふたりの好きなことは日向ぼっこ。嫌いなことは水にぬれること。さまざまなきのこと仲良く暮らす二人は、仲間の危機を救うためにある「変身」をし、ぐんぐんと強くなって……。2014年に第36回講談社絵本新人賞を受賞した本作は、審査員の絵本作家である大島妙子さんに「お話のくだらなさに対して絵の濃ゆさがハンパない」と言わしめた作品だ。15年の発売からじわじわとファン層を広げ、現在では13刷に達している。

 もともとイラストレーターを目指していました。でも出版社に持ち込んで営業をして、というところまでの自信がなく、自分ができそうなコンテストに片っ端から応募していました。いわゆる公募マニアです。

 この時もコンテストで何を描こうかなと、落書き帳にあまり考えずにメモをしていたんですね。きのこを沢山描いていた時に、たまたま「干ししいたけ」に濁点を打ってみた。すると「じいたけ」になり、じいさまの形をした干ししいたけのアイデアが降りてきました。

石川さんが初めて「ほしじいたけ 」と出会った瞬間。写真左上部分に「ほしじいたけ」と「ほしばあたけ」が、左下には「袋に入ったほしじいたけたち」が描かれている。中央部分には若返った二人の姿も。

――四日市市の「メリーゴーランド絵本塾」に通っていた石川さんは、ほしじいたけを登場させた作品を課題として提出する。最初のプロットは、教室に行くまでの電車の中で描いた。

 ほしじいたけを主役にと思っていましたが、なかなかお話はまとまりませんでした。手ぶらで出席するのは授業料がもったいないから、とりあえず出してしまえ~と、半ばでっち上げたような感じでした。そこから新人賞に応募するまで、さらに出版するまで、ラフは何度も描き直しました。

 最初の物語で考えていたのは、お話の世界では「シワシワ、カサカサがいい」という、価値がある意味逆転していることを想定していました。彼らにとっては、変身してシワがなくなってしまうのは、大変なことです。しかし、絵本塾で先生や生徒さんたちに読んでもらったら、その世界観を捉えてもらえませんでした。その後、同じ塾に通っている友人から「変身後のしいたけは弱ってしまう(腐りやすい)から、元に戻らないといけない、としたら」とアドバイスされ、なるほどと思いました。干ししいたけは、シワシワに干すことで保存性を高めている、つまり「長生き」しているわけですから。このようにして、少しずつ設定を固め、お話を前に進めることができました。

「ほしじいたけ ほしばあたけ」(講談社)より

 強く変身したままでいいではないか、という意見もありましたが、彼らはこの「ほしじいたけ・ほしばあたけ」の状態が好きなんです。いまの自分たちがいい、ということは守りたいと思いました。

 何度も描きなおす中で、客観的な意見や、第三者の目は必要だなということを、しみじみ感じました。絵本を作るときは、読者としての目と、作者としての目、両方なくてはならないと言われますが、私はアイデアが浮かぶと、どうしてもそれに引きずられてしまって「これはもう、面白いぞ」と視野が狭くなってしまいます。他の展開を考えられなくなってしまうんですね。

――読者から届くカードは、子供にまじり、大人や高齢者からのお便りも少なくない。「孫や子どものためでなく、自分のために買った。お話に爆笑、同世代の“ばあさん”友だちに送った」という70代女性からのファンレターも。教訓めいた話ではないが、読んだ人の心をほぐし、温める本だ。

 あからさまに教訓めいた絵本は書きたくないなあとは思っています。「ほしじいたけ 」の絵本を、どなたかがブログで「なんの教訓もない」と評していて、それは逆になんだか嬉しかったですね。

 くだらなくて、なんの教訓もない絵本から、「老いも悪くないな」とか、「躊躇なく他人のために行動するってすごいな」とか、「乾物はいいな」とか、色々と感じてくれる人もいます。そうして自由に、様々に感じて頂けるのが、とても嬉しいです。

息子さんがかつて使っていた道具箱を画材入れにしている。

物語を作れるなんて、思わなかった

――遅咲きの絵本作家である。小さい頃から絵は好きだった。妹はイラストレーターの津田さと子さん(故人)だ。

 大学は英文科と美術科、どちらも行きたくて、最後まで迷って美術を専攻しました。卒業してからは中学校の教員を数年間務めましたが、長男の出産を機に辞めて、専業主婦になったんです。

 本当はイラストレーターになりたいと思っていました。妹は全盛期の90年代にすごく活躍していて、そういうのを見ていて「自分もイラストの仕事ができたらいいな」と思っていたんです。それを妹に相談したら、「お姉さんはクライアントにへこへこするより、自分の好きに描いたほうがいい。あまりイラストレーターには向かないと思う」と言われたんです。一体私のどの辺りを見ていたんでしょう……。

 子育てで忙しかったこともあり、積極的に出版社に売り込みに行くことはありませんでしたが、公募を見つけては、自分ができそうなコンテストに片っ端から応募していました。そこから、ぽつぽつとイラストの仕事をするようになりました。でも自分の描く絵はタッチがバラバラで、今でも「自分のタッチ」というものがないように感じています。

造形教室の講師(現在はアシスタント)も務める。写真は造形教室用の試作品。子どもの発想の豊かさに刺激され、それが直接的・間接的に絵本創作に生きているという

 当時は、絵本の挿絵を描かせてもらえないかと思っていましたね。自分にはお話が作れるとは思えませんでした。お話を作るには、特別な才能が必要だと思っていました。でも、絵本で必要とされているような可愛い絵はどうしても描けなくて……。どことなく絵に「毒」がしみ出るみたいです(笑)。なかなか依頼がいただけませんでした。

 出版社に行く度胸もなく、ひたすら公募ガイドを見て、出せそうなものに出していました。イラストだけでは数に限りがあるので、絵本のコンテストへも少しずつ出品してみることにしました。絵本のコンテストは「野菜」とか「お弁当」とか、テーマが決まっていることが多く、話が考えやすいんですね。テーマをもらって話を作る練習をし、腕慣らしをしていきました。

息子さんの彼女が作ってくれたという「ほしじいたけ ほしばあたけ」のキーホルダー。「表情まで正確」と、石川さん、嬉しそう。「いつもカバンにつけています」

 3人の息子たちは皆、家を出て自立しました。私は息子たちが出て行った部屋の学習机で作品を作っています。もう少し若いうちにデビューできていたらよかったな、と思うことはあります。リアル子育て中の人は、絵本のネタがごろごろ転がっていていいなあと思ったりもしますね。

 でも、タイムマシンで子育てまっ最中に戻ったとしても、すべてをほったらかして締め切りに追われつつ絵本を仕上げるということは、自分には無理だと感じています。今だからできたことですし、このタイミングで絵本作家になれたことはご褒美のように思っています。