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常に抱えてきた劣等感が、挑戦し続ける原動力に パラ競泳・山田拓朗さん(後編)

文:渡部麻衣子、写真:斉藤順子 競技写真は©朝日新聞社

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人生初のパラリンピックはすべてに圧倒された

ーー3歳から水泳を始めて、2004年に日本人選手史上最年少の13歳でアテネ・パラリンピックに出場。初めてのパラリンピックはどうでしたか?

 人生初のパラリンピックは衝撃的で、大会の規模、会場の歓声、すべてに圧倒されました。パラ水泳では細かくクラス分けがされていて、障害の程度が同じ人同士で勝負をするんですが、僕のクラスは選手層が厚くて、出場した種目はすべて予選で敗退。何の結果も残せませんでした。

ーーでは、帰国後はより一層練習に励むように?

 それが、予選落ちだったくせに燃えつき症候群になって、一度水泳から離れたんですよ。そうは言ってもすぐに水泳に戻りたくなるだろうと思っていたのに、1カ月経ってもその気にならず、「このまま水泳をやめることになっちゃうのかな」と考えたらそれが怖くなって、戻ることにしました。

 今振り返ると、本気で水泳をやめたかったわけじゃないんです。パラリンピックの華やかさと普段の練習の地味さの落差でやる気を失っていただけだった。練習再開後は、すーっと水泳漬けの生活に戻りました。たぶん、人生で泳いだ距離の方が歩いた距離より長いと思います。毎日6000mくらい泳いできたので。

ーーアテネ、北京、ロンドン、リオと4大会連続出場を果たし、リオでは50m自由形で銅メダルを獲得。2020年の東京大会では金メダルを期待されていますが……。

 もちろんメダルも重要ですが、リオの後に気づいたのは、「自分がこだわっているのはメダルじゃなくて、記録なんだな」ということ。いい記録が出ればメダルがとれなくても納得するかもしれないけれど、ラッキーで金メダルがとれちゃったら、たぶん納得できない。リオの26秒は自己ベストでしたが、25秒台を目標にしていたので、悔しかったんです。

 僕と同じく左腕のひじから先がないマシュー・カウドリーというすごい選手がいるんですけど、彼は50m自由形を25秒1で泳いでいるんです。片腕でもそこまで出せるということは彼が証明してくれているので、僕もまずはそこを目標にしています。

ーータイムを上げるには、どうしたらいいのでしょうか。

 水泳は陸上と違って途中で加速できない競技。飛び出した瞬間が一番速くて、あとは水の抵抗を受けて減速していくだけなので、始めの15mの区間で一番高いスピードを出せるか、そして、そのスピードをどの程度維持できるかが重要になってきます。その部分をあと2年の間にどれだけ伸ばせるかですね。

泳ぎの「お手本」がないからおもしろい

ーー競技の魅力を教えてください。

 一口に腕の障害と言っても、一人ひとり微妙に長さや形が違うから、パラ水泳には泳ぎのお手本というものがない。だからこそ、自分の体にとってベストな泳ぎを追求していくおもしろさがあります。

 これまで4回パラリンピックに出場して、その都度そのタイミングでできる一番のパフォーマンスをしてきましたが、まだまだ速くなれるという思いがある。その気持ちがある限りは挑戦し続けたいし、辞めようとは思えないです。

ーー中学まではオリンピックを目指していたそうですね。

 一般のスポーツクラブの選手コースにいて、障害のある選手は僕一人。全員オリンピックを目指しているという環境にいたので、腕のあるなしに関係なく、一緒に練習している友達に勝ちたい一心で、パラの世界でのタイムではなく、常に健常のタイムを意識していました。

 パラの世界では小学生のときに日本選手権を制していますし、日本一にはすぐになれましたが、クラブ内では一番になれないどころか、ずっと下の方。自分より速い選手がたくさんいる中で劣等感を感じ続けていたから、現状に満足せずチャレンジを続けてこられたんだと思います。

ーー劣等感に飲み込まれそうになることはなかったのでしょうか。

 中学の終わりくらいに弟に記録を抜かれても、悔しさはなかったです。みんなが両手で挑戦するところを、自分は片手で挑戦している。他の人よりも難しいことに挑戦できるというのはやりがいがあったし、おもしろかったんです。その気持ちは今も変わりません。

ーー東京パラリンピックでは、どんな姿を見せたいですか?

 世界中からトップ選手が集まるパラリンピックは、他のどんな大会よりも特別な大会で、一番刺激的。25秒の中盤くらいの記録を出して、みなさんに「すごい!」と思ってもらえるようなインパクトのあるパフォーマンスを見せたいですね。