昨年12月に亡くなった直木賞作家の葉室麟さんをしのび、11月23日、東京都中央区の時事通信ホールでトークイベント「作家葉室麟さんと歴史と旅」(朝日新聞社・朝日新聞出版主催、西南学院大学協賛)が開かれた。葉室さんが旅路に何を思ったのか、ゆかりの作家たちが語り合った。
〈勝者ではなく敗者、あるいは脇役や端役の視線で歴史を見たい。歴史の主役が闊歩(かっぽ)する表通りではなく、裏通りや脇道、路地を〉
この思いを胸に、葉室さんは2015年4月から、朝日新聞西部本社版に歴史紀行「曙光(しょこう)を旅する」を連載(先月刊行)。親交の深かった作家の朝井まかてさんと東山彰良さんが、旅の記録から見えてくる葉室さんの歴史観などについて語り合った。司会は西部報道センターの佐々木亮記者。
朝井さんは、福岡県筑豊地方で炭鉱労働者と生活を共にした記録作家、故上野英信さんの足跡を訪ねた旅に注目。同県出身の葉室さんは学生時代、上野さんと酒を酌み交わし、その仕事を終生尊敬していた。
朝井さんは「自分の生き方を問いかける鏡のような存在が、上野さんだったのでは」。沖縄県名護市辺野古も取材した葉室さんについて「書くだけで行動しなくていいのか、と自身に問い続けた人だった」と話した。
熊本県水俣市で、胎児性水俣病患者の声にも耳を傾けた葉室さん。東山さんは「西洋化こそが進歩の道筋とされたなか、近代化によって生じた問題をつぶさに見つめた旅だった」と指摘。「近代化で、日本人が失ってしまった(思考の)構造を探究しようとしたのではないか」
客席で聴いていた作家で、やはり親交のあった澤田瞳子さんも請われて壇上に。「『歴史小説は、いまを問いただしていかなくてはならない』と教えていただいた」としのんだ。(上原佳久)=朝日新聞2018年12月5日掲載