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「美しき免疫の力」書評 人間味豊かな研究、発見の物語

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2018年12月08日
美しき免疫の力 人体の動的ネットワークを解き明かす 著者:ダニエル・M.デイヴィス 出版社:NHK出版 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784140817575
発売⽇: 2018/10/26
サイズ: 20cm/357p

美しき免疫の力 人体の動的ネットワークを解き明かす [著]ダニエル・M.デイヴィス

 まもなくノーベル賞の授賞式。医学生理学賞を受賞する本庶佑さんらは、免疫をがんの治療に生かす手がかりを見つけた。免疫は「現代科学の最前線のなかでもひときわ重要だが、同時にひときわ複雑な研究分野でもある」。
 人の体がどのように病気と闘うのか。その新しい知見を本書は謎解きのようにたどる。専門的な内容も出てくるけれど、本を閉じないでほしい。理解しにくい部分は気にせずに読み進めれば、なぜ探究を始めたのか、どんな努力を続けたのか、発見に至る物語がいくつもでてくる。
 顕微鏡で見えた奇妙な細胞にこだわったり、患者が話す症状をヒントにしたり、新発見のきっかけも様々。がんで死亡した3日後にノーベル賞授賞が決まった研究者は、自らの成果である実験的な治療を試し続けた。学会発表で「馬鹿げている」と酷評された学者、ライバル意識が強く仲が悪い研究者、失敗も含めて先端科学の舞台裏は人間味にあふれている。
 「誰もが見たことがあるものを見て、誰も考えなかったことを考えること」「優れた研究を行うためには、たった一つ、何よりも重要なことがある。それは重要な問いを立てることだ」。要所で目を引く筆者や先達の言葉は、学問の世界にとどまらず、何かに挑む人への教えでもある。
 免疫学は、日本も存在感を発揮する分野、本書には本庶さんを含めて何人もの日本人が登場している。
 本庶さんも強調する基礎研究を重視する考え方は、国を問わず、飛躍的な進展を成し遂げた研究者に共通する。「自分の発見を医療に応用できるかどうかなど念頭に置かず、免疫の仕組みを解明することだけを考えていた」「応用科学など存在しない、あるのは科学の応用だけだ」
 研究競争、研究費の獲得にまつわる課題、技術が持つ善悪の両面性、いまの科学の置かれた状況をも感じ取れる。
    ◇
 Daniel M.Davis 1970年生まれ。英マンチェスター大教授(免疫細胞生物学)。英科学雑誌「ネイチャー」などに論文を発表。