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えがしらみちこさんの絵本「あめふりさんぽ」 お散歩の中で感じる季節の移ろい

文:加治佐志津、写真:斉藤順子

お散歩しながら口ずさめる、楽しいフレーズの絵本

――窓を打つ雨音に誘われて、お気に入りの傘を持って颯爽と散歩に出かける小さな女の子。『あめふりさんぽ』は、雨の屋外での楽しい出会いを透明感あふれる水彩で描いた、えがしらみちこさんの代表作だ。えがしらさんが文章と絵の両方を初めて一人で手がけた絵本でもある。

 それまでは、お話も絵も自分一人でというのは、ハードルが高すぎて無理だと思っていたんです。でも娘が生まれて、抱っこで一緒に散歩に出かけるようになってから、ふと思ったんですよね。お散歩しながら口ずさめる楽しいフレーズの絵本があったらいいなと。いくつか探してみたんですが、どれも自分が求めるものとはちょっと違っていて。それなら自分で作ってみようと思ったんです。

 20代の頃に個展のために描いた絵も、お話を作る際のきっかけの一つになりました。雨の日、紫陽花の上のかたつむりに傘を差してあげている女の子の絵なんですが、『はこちゃん』(文・かんのゆうこ、講談社)の編集者さんが、この絵を膨らませて絵本にしてみたら、と言ってくださっていて。そのときは、これは私の中で一コマだけで完結しているので、広げてお話にするなんてできないと思って断ったんです。でも娘とのお散歩を経て、この絵とお散歩をかけあわせれば絵本が作れるなと思うようになって。そうしてできあがったのが『あめふりさんぽ』です。

『あめふりさんぽ』のお話作りのきっかけとなった、個展のために描いた作品
『あめふりさんぽ』のお話作りのきっかけとなった、個展のために描いた作品

 といっても、初めての自作絵本だったので、なかなかラフにOKが出ずに苦労もしました。かたつむりに傘を差してあげるシーンで「ひとりぼっちでさみしいね」と、わざわざ理由を説明するような一文を入れたり、後半がやけにあっさり終わってしまったり……。編集者さんと何度もやりとりしながら、削ぎ落したり展開を変えたりして、やっと形になりました。

 「あめふりさんぽ ちゃぷちゃぷちゃぷ」のところは、お母さんが「あめふりさんぽ」と言ったら、子どもが「ちゃぷちゃぷちゃぷ」というように、コール&レスポンスみたいな感じで口ずさんでもらえたらと思って作りました。こんな絵本を作っておいて何ですが、私も雨の日はやっぱり憂鬱になっちゃうんですよ(笑)。でも、お気に入りの長靴があると、それに合わせて服を変えたりもできるから、雨でもうれしくなります。そんな風に、雨の日でも気分を上げるための1アイテムとして、『あめふりさんぽ』も楽しんでもらえたらうれしいですね。

「あめふりさんぽ」(講談社)より
「あめふりさんぽ」(講談社)より

――その後、続編として『さんさんさんぽ』『ゆきみちさんぽ』『はるかぜさんぽ』『あきぞらさんぽ』が出版された。自然の中を無邪気に動き回る小さな女の子は、えがしらさんの愛娘がモデルだという。

 『あめふりさんぽ』を作っていた頃はまだ赤ちゃんだったので、もう少し大きくなったらこんな感じかな、こんな髪型にしてあげたいな……と想像して描いていました。『あきぞらさんぽ』が出る頃には、もうすっかり絵本の中の女の子より大きくなってしまったんですけどね。

 私は九州の田舎で生まれ育ったんですが、おばあちゃんがよく「夕焼けがきれいだから見てごらんよ」なんて声をかけてくれたんです。草花の名前をいろいろと教えてくれたのもおばあちゃんでした。だから娘にも、季節の移ろいを感じられる子に育ってほしいなという思いがあって。絵本を読んでくださる読者の皆さんにも、実際のお散歩と絵本とをリンクさせながら、散歩の途中で出会う生き物や草花に興味を持ってもらえるといいなと思っています。

静岡・三島に絵本専門店「えほんやさん」をオープン

――絵本作家になるまでの道のりは、まっすぐではなかった。小学校教諭を目指したものの教育実習で挫折、大学の職員として事務の仕事をする中、WEBデザイナーに興味が湧いて、福岡から上京。デザインの勉強のために絵画教室に出入りするうちに、イラストレーターを志すようになった。

 イラストレーターの学校に通っていた頃は、装幀のイラストレーションの仕事がやりたいなと思っていたんです。それで、編集者さんがよく来るというギャラリーで個展をやらせてもらったら、絵がほわっとしてるから児童書向きだねと言われて。でも、お話なんて書けないし、周りからも絵本の世界で食べていける人なんかいないよとさんざん聞かされていたので、絵本作家ってそんなに大変な仕事なのか、私は絶対なれっこないなって思っていました。今、こうして絵本作家として仕事ができているのは、いろんなご縁があったおかげです。

――2018年10月には、静岡県三島市に自身が代表を務める絵本専門店「えほんやさん」をオープン。子育て中のお母さんやお父さんが子連れで気軽に立ち寄れる、拠りどころとなるような場所にしたいと語る。

 子どもが生まれて間もない頃、夫の仕事の都合で三島に引っ越してきました。最初は土地勘もなくて、オムツがどこで売っているのか、病院はどこがいいのかもわからないし、アドバイスをしてくれる知り合いもいなくて、どうしたものかと戸惑ってしまって。仕事もあまり多くなかったので社会との接点も少なくて、昼間は家で赤ちゃんと二人きり。当時は夕ごはんの買い物が唯一のストレス解消だったりしました。

 絵本専門店を始めようと思った理由の一つは、その頃にこんな場所があったらよかったなと思うからです。どこで何を買ったらいいとか、いつどこでどんなイベントがあるとか、情報が入らなくてすごく困ったので、ここに来れば子育て中のお母さんお父さんにとって役立つ情報が入る、というような場所をとにかく作りたかったんです。

 といっても、絵本作家としての仕事もあるので、「いつか、老後にでも……」と、はじめはぼんやり夢見ていただけでした。でも、絵本作家・宮西達也さんのギャラリーの隣が空き店舗になったのをきっかけに「やっぱり今やろう!」と決意したんです。今やれることをやらないで「やっぱりあのとき、やればよかった」と後悔したくなかったからです。妹が店長を買って出てくれて、福岡から家族で三島に引っ越してきてくれました。

 お店の仕事は思いのほか大変で、てんやわんやの毎日ですが、それでもすごく楽しいですよ。絵本のことを、一人の作家として、母親としてだけでなく、本屋さんとしても見られるようになってきたし、買う人はこういう視点で見るのか、といったことも間近で知ることができて、それがまた絵本作家としての創作に返ってくることもあって。原画展や作家さんを招いてのトークイベントなど、やりたいことは山ほどあるので、これからどんどん実現していくつもりです。

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