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渋谷にて、栄えて消えゆく無常の美学に浸る 「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」展

ユベール・ロベール《ローマのパンテオンのある建築的奇想画》 1763 年 ペン・水彩、紙 ヤマザキマザック美術館

 繁栄し、やがて消えゆくはかなさ。そんな「廃墟」の、無常の美学に浸れる展覧会「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」が、東京・渋谷の区立松濤美術館で開催中です(1月31日まで)。古代神殿などの廃墟がさかんに西洋絵画に描かれだしたのは17世紀頃のこと。イタリア・ポンペイ遺跡の発掘もあり、18~19世紀には廃墟ブームが起こります。廃墟を描いた絵画は海を渡って日本にもやってきて、江戸時代には浮世絵師たちが、珍しい異国の風景を取り入れます。時は経ち、現代日本。遺物ではなく廃墟化した未来都市が、しばしば漫画などに登場します。今展では、廃墟画の歴史を、国内24カ所の所蔵先から集めた、17世紀から現代までの油彩、水彩、版画、日本画など約70点で紹介します。担当学芸員の平泉千枝さんが選んだ4冊で、廃墟の魅力をたっぷりと。

  1. 廃墟の美学 [著]谷川渥
  2. ポンペイ・奇跡の町:甦る古代ローマ文明 [著]ロベール・エティエンヌ
  3. 大いなる遺産 [著]チャールズ・ディケンズ
  4. AKIRA [著]大友克洋

(1)「廃墟の美学」
 廃墟が絵画の隅に描かれはじめ、ポンペイ遺跡が発掘されて廃墟が観光地化し、土産品に廃墟の絵画が求められ、というブームの流れを体系的に紹介しています。やがてイギリスやフランスでは、廃墟のような庭を作ることが好まれたとのエピソードも。

「西洋の廃墟の美術の流れを押さえるには、この本が最適かと思います。昔から廃墟がモチーフとして描かれてきて、廃墟を愛(め)でる意識があったということが学べます。絵になる景色、絵のように美しいモチーフと捉えられていくんですね。18世紀の画家、ユベール・ロベールは『廃墟のロベール』と呼ばれるほどの廃墟画の名手。同時代の版画家のピラネージも今展で紹介します。20世紀初めにはシュールレアリスムが興り、心象風景として、絵の中に突然廃墟的なモチーフが出現するように。ポール・デルヴォー、マグリットらの作品も必見です」

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 『ローマの古代遺跡』(第2巻Ⅱ)より:《古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点》 1756 年刊 町田市立国際版画美術館

(2)「ポンペイ・奇跡の町:甦る古代ローマ文明」は、図や写真を掲載しながら、ポンペイの歴史や火山灰に埋もれた状況、発見の経緯などを伝えます。

「廃墟展をやるならと、先日初めてポンペイを訪れました。有名な観光地ですが、夕方に行くと、人けがない中に巨大な街が広がっていて、あっ廃墟って怖いんだと。日本からの観光客も多いですが、改めて、ポンペイってこういう場所だったんだと旅行後に振り返るのにもいい本かなと思います。明治になると日本でも西洋美術教育が始まり、どうやら廃墟というものは絵に描いてもいいモチーフなんだということが分かるんですね。洋画家の藤島武二も、海外留学時にポンペイに足を運んで描いてます」

藤島武二《ポンペイの廃墟》 1908 年頃 油彩、板 茨城県近代美術館

(3)「大いなる遺産」は、脱獄囚に出会った貧しい少年ピップが主人公。老婦人ミス・ハヴィシャムの屋敷に招かれるようになり、婦人の養女で高慢な美少女エステラと出会います。成長したピップは贈り主が分からない遺産を相続し……。

「ミス・ハヴィシャムは、婚約者に捨てられた時から時計を止め、荒れはてた屋敷に住んでいます。この荒涼とした屋敷というのが、非常に大きな役割を担っている話かなと思います。作者のディケンズ自身も、19世紀当時に全盛だった廃墟趣味の影響を大きく受けていて、旅行記『イタリアのおもかげ』の中で、廃墟だと思って行ったら住人がいてがっかりしたと書いています。1997年にはイーサン・ホーク、グウィネス・パルトロウ出演で映画化され、廃墟のような屋敷のイメージが映像で見られます」


(4)「AKIRA」は、1982~90年に「ヤングマガジン」(講談社)に連載されたSF漫画。五輪を翌年に控えた2019年、第3次世界大戦後に築かれた未来都市「ネオ東京」を舞台に、地下深くに眠る「アキラ」の封印が解かれて、首都は再び大きな危機を迎えることに。

「2020年の東京オリンピックを予言していたということで話題になりました。日本の漫画では、将来、自分の住んでいる都市が廃墟化するという設定が一つのパターンに。戦争で原爆を経験しているので、世界そのものが危ういという危機的意識があるのかなと思います。また、東京などの都市はまさに発展中。発展するほどに、その終わりが怖くなるのでは。日本の現代アートでも未来の廃墟が描かれ、元田久治さんや野又穫さんは廃墟化した渋谷を表現しています。野又さんには本展に合わせて、『終わりのむこうの風景』をテーマに新作を描いて頂きました。どのような絵かは、会場でのお楽しみです」

野又 穫《交差点で待つ間に》 2013 年 アクリル、カンヴァス 作家蔵 撮影:木奥恵三 ©Minoru Nomata

「本展は、渋谷という当館の立地があって成立した展示です。渋谷パルコの建て替え工事現場の仮囲いには今、『AKIRA』のイラストが描かれています。展覧会を見ていただき、さらに今の発展している渋谷を歩いていただくことが、展覧会としてセットです。廃墟は繁栄と表裏一体。繁栄する現在を大切に思い、今を別の視点から見ようというのも、展示のテーマです」

元田久治《Indication: Shibuya Center Town》 2005 年 リトグラフ 作家蔵

編集部のおすすめ

「廃墟の歩き方 探索篇」 [監修]栗原亨
300件以上の廃墟を探索した著者が、全国各地の廃墟をエリア別に紹介。実際に訪れてみたいと思った人への注意点や警告も細かく説明されています。写真が多用され、ビジュアルで廃墟が味わえるので、頭の中で廃墟巡りを楽しんでみては。