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「岩手という土地に影響を受けた」 悪趣味でグッドセンスなトラックメイカー・doooo(CreativeDrugStore)

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

今は無き名店・DJ BAR DAIで音楽を学んだ

 今回は「ラッパーたちの読書メソッド」特別編として、トラックメイカーのdooooを紹介する。彼のことが気になりだしたのは、1stアルバム「PANIC」を発表した頃だった。このアルバムのジャケットにはAKAI MPC2000XL(※ヒップホップのトラック制作に使用する機材)の写真が使用されている。しかし、よく見ると筐体が人肉風に加工されていた。サウンドはセンスが良いのに、ジャケットはなんでこんなに悪趣味なんだと思った。そのギャップが面白くて、彼がどんな本を読んでいるのか話しを聞きに行った。

 「僕は岩手出身で、盛岡のDJ BAR DAIというクラブによく遊びに行ってた時期があったんです。残念ながらもう閉店してしまったんですが、本当にカッコいいお店でした。ヒップホップはもちろん、ハウス、テクノ、ジャズ、ブラジリアン、アフリカン、ワールドミュージック……。あらゆる音楽がかかるんです。あそこで遊んで一気に聴く音楽の幅が広がったし、お店で出会った人たちからもものすごく影響を受けましたね。ちなみに、いま田我流さんのバックDJをしてて、昨年1stアルバム『Space Brothers』を出したMAHBIEも一緒に遊んでいた仲間です。

 その後、大学を卒業して東京に来ました。何年かしたある日、僕の作ったDJミックスの音源を気に入ってくれたBIM(THE OTOGIBANASHI'S)が連絡をくれたんですよ。トラックに関しては岩手にいた頃からずっと作っていたので、何曲かBIMに聴かせたら気に入ってくれて。THE OTOGIBANASHI'Sの1stアルバムに入ってる『Froth On Beer』のトラックは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』からインスパイアされて作りました。宮沢賢治って岩手出身だから、子供の頃から読む機会が多くて。僕はSF的な世界観がすごく好きなんですが、それは岩手出身というのも大きいかもしれないです」

触ると指がかゆくなる古雑誌を眺めて当時に想いを馳せる

 アルバム「PANIC」のジャケットに使用されたあのMPCは一体どういう発想で制作されたのだろうか? 宮沢賢治とは似ても似つかないが……。

 「1stアルバムだから自分らしいジャケットにしたかったんです。一目で自分という人間が表現されているような。それでいろいろ考えてたら、『MPCと人間を合体させたらどうかな?』って思いついたんです。元ネタは蝿と人間が合体しちゃう『ザ・フライ』。僕はホラーも大好きで。それで特殊メイクとか特殊造形を専門にやってる『自由廊』という工房に行って『サンプラーという機械を肉にしてもらいたいんですが』とお願いしたら二つ返事で作ってくれました。要望以上のモノを作って頂けてとても嬉しかったです。

 ホラーやスプラッターを好きになったのは兄の影響ですね。小学生の時、ある日、家に帰ったら兄が、すごく残酷な映画を観てたんですよ。女の子がアキレス腱をハサミで切られたりするような。気持ち悪かったんだけど、なんとなく最後まで一緒に見ちゃったんです。そこから徐々にホラーやスプラッターに興味が出てきて、兄に怖いマンガを貸してもらったりするうちにハマってしまいました(笑)」

 ちなみにこの時dooooが兄と観ていたのが、『オールナイトロング』という悪名高い日本映画。過剰に残酷な作品性が口コミで話題を呼び、SNSはもちろんインターネットすらなかった90年代にカルト的な人気を誇った。本作の続編にあたる『オールナイトロング2』は、残酷描写がより過激化して映倫に審査拒否された。『オールナイトロング 3』は、若かりし頃の北川悠仁(ゆず)が主演している。この3作品は未だDVD化されていない。そんな曰く付きの映画の話をしたdooooが最初に紹介してくれたのは、古めかしい雑誌類だった。

 「まず最初の紹介するのは、1946年に発売された『科学画報』という雑誌。骨董市で見つけました。この雑誌は読んでると、目や指がかゆくなります(笑)。昔作られた、子供から大人まで読める科学雑誌みたいですね。僕はこういう古い雑誌を読みながら、発売された当時のことを想像するのが好きなんですよ。この雑誌には『人類史は5万年前からスタートした』と書かれていて。人類の誕生って確か何百万年前とかだったと思うのですが、この頃はまだ5万年前だと考えられていたんですよ。そういうのがすごく面白い。

 あと1946年だから、戦後間もない雰囲気も感じられる。『○○という建物は爆撃で無くなってしまったが』みたいなこともさらっと書かれてたり、食用カエルや薬草の見分け方とかもすごい詳しく載ってるんですよ。当時は物が少なかったからカエルを採って食べたり、その辺に生えている草から薬を作ったりしてたんだろうなって勝手に想像したり。

 広告も面白いですよ。この当時もペン習字の通信講座みたいなのがあって。でも先生の肩書きが元文部大臣とかなんですよ。『ペン習字の先生が元大臣とか本当かな? ふかしじゃないの?』とか思ってネットで調べてみたら、普通に実在してて。だから当時はペン習字の先生とかもそんなにいなかったから、なんちゃら大臣の人が教えてたみたい(笑)。

 この『犯罪科学』って雑誌も骨董市で見つけました。これはもっと昔の本だから、旧字体ばっかりでめちゃくちゃ読みづらかったです。でも『犯罪科学』ってタイトルが面白そうじゃないですか?それで頑張って読んでみたらほぼほぼエロ雑誌でした(笑)。しかも描写がやたらえげつなかったり、今読むと「差別でしょ」とか「人権侵害でしょ」と言われてしまうような表現が満載で。いろいろ凄かったです」

doooo - Pain feat. 仙人掌 (BLACK FILE exclusive MV “NEIGHBORHOOD”)

不思議な話が大好きだったからこそ「PANIC」を作ることができた

 「一応ちゃんとした本も持ってきました」と紹介してくれたのが2冊目の「音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々」という本。著者のオリヴァー・サックスはアカデミー賞を受賞した映画「レナードの朝」の原作者でもある。

 「この本はたまたま行った本屋で見つけて、衝動買いしました。タイトルが僕の好きな言葉だらけだったんですよ。『脳神経』とか『音楽に憑かれた人々』とか。読んでみたら想像してたのとは違ったけど、すごく面白かった。このオリヴァー・サックスさんは脳神経科医らしくて、実際に彼が出会った患者さんのことが書かれていました。

 まず最初に人間が音楽を認識するメカニズムについてや、そもそも生き物には音楽なんて必要ないのになぜ人間は音楽を聴くのか、みたいな事が書かれてるんです。そこは音楽を作る人間として普通に勉強になりましたね。でもやっぱりすごかったのは患者さんの話。

 例えば、雷に打たれた女性が急に音楽好きになった話とか、逆に音楽を聴くと発作が起きちゃう人とか。個人的にすごく興味深かったのは、音楽を音楽として認識できない人の話。オーケストラを聴いてても、台所で何かをひっくり返しちゃった『ガッシャーン』みたいな騒音にしか聴こえないそうです。

 この本で紹介されている人たちの事を最初は気の毒だとは思いましたけど、次第にその病気と、病気との向き合い方に興味を持ってしまいました。最新の医療を持ってしても治せない音楽の病気ってどんなものなんだろう、そんな病気になった人はどう生きていくのだろうと。さっきのガラクタみたいな古書とかもそうなんですけど、こういう話が大好きだったからこそ、僕は『PANIC』というアルバムを作ることができた。他の人にとっては理解できなかったり、価値のないものかもしれないけど、僕にとってはどれもとても大事なものなんです」

岩手という土地が自分の感性に大きな影響を与えている

 そう話したdooooが最後に紹介してくれたのが「ネコノヒー」というコミックだった。キューライスこと坂元友介がブログ・キューライス記で公開していたマンガがTwitterで話題になり書籍化された。

 「僕、不条理でシュールなマンガが大好きなんです。吉田戦車さんとか和田ラヂヲさんとか。この『ネコノヒー』はネコノヒーという猫の日常生活が4コマ漫画で書かれてるのですが、絵のかわいさの裏にシュールな雰囲気や適度な毒を感じたんですよね。Twitterで見かけて興味を持って、他の漫画やYouTubeにアップされた動画を見たのですが、どの作品も僕の好みど真ん中で凄く面白かったです。キューライスさん、年も1こしか違わないみたいで大ファンです。

 あと実は吉田戦車さん、僕と同じ岩手県出身で、地元ですごい人気でした。普通学校の授業中にマンガを読んでると怒られるじゃないですか? でも「吉田戦車いいね」と笑って許してもらえたり(笑)。宮沢賢治のSF的な世界観しかり、吉田戦車さんの不条理な笑いの感覚しかり、僕という人間を形成する上で岩手という土地はかなり大きな影響を与えていると思いますね」

doooo Street View feat. BIM, OMSB & DEEQUITE
doooo “Utage” feat. MonyHorse (Official Video)