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渋谷、迷宮の街 谷底の混沌、若者のざわめき

ハロウィーンに合わせ仮装した人たちが行き交う渋谷駅前のスクランブル交差点=10月31日夜

 年末が近づき、いつも賑(にぎ)やかな渋谷は、さらにざわざわした雰囲気になっている。
 この街とのつき合いはかれこれ40年近くになる。大学に通い、新聞記者時代は社会部の警察(サツ)回りとして歩き回り、今は仕事場に通う。40年の間にはいろいろなことがあった。例えば学生時代には、尖(とが)ったファッションの若者が街を闊歩(かっぽ)していた。DCブランドブームである。警察回り時代は、「チーム」の影響で、センター街が危ない雰囲気になった。しかしざわついた空気は終始変わらない。
 その原因は、他の繁華街に比べて訪れる人の年齢層が圧倒的に低いことだ。若い人に特有の元気のよさと無秩序さが、この街のカラーを決めたと言っていい。渋谷は、少なくとも1970年代以降は若者のための街だった――と、50代半ばになってしみじみと思う。

複雑さの理由は

 もともと学校が多いこと、若者向けの劇場やファッション関係のショップなどが多く進出したことから、若者が集まってきたわけだ。ただ、明るい雰囲気の中に、若者を食い物にする暗部も少なからずあったのだが。
 今の渋谷に相応(ふさわ)しい唯一の形容詞は「混沌(こんとん)」だろう。その渋谷は今、100年に一度の大変革の時期にある。毎日歩いている私でも時々道に迷うほどだ。
 特に、JR、東京メトロなどが乗り入れる渋谷駅は解体・再生の只中(ただなか)にあり、まさに迷路だ。東急東横線が地下化された頃からこの傾向には拍車がかかり、地上だけでなく地下の迷宮化も著しい。どうして渋谷駅がこんな風になってしまったのか、分かりやすく知りたいなら『なぜ迷う? 複雑怪奇な東京迷宮駅の秘密』がお勧めだ。
 迷いやすい各地の駅を紹介する中で、渋谷駅が地下5階から地上3階までの複雑な構造になってしまった理由を、「谷底」にある渋谷特有の地形がそもそもの原因、と明快に説明する。約10年後の再開発完成後の説明も分かりやすい。
 スクランブル交差点は、大きなイベントがあると一気にカオスと化す。サッカーワールドカップなどの大きなスポーツの大会で日本戦がある時にはサポーターたちの「集会場」になり、最近はハロウィーンでの若者たちの乱暴狼藉(ろうぜき)が、毎年恒例のニュースになってしまった。

流行たどり分析

 この辺の事情について歴史をたどりたいなら、『渋谷学』だ。研究に基づいた真面目な本だが、最近のスクランブル交差点の騒動についてまでカバーしており、トータルの渋谷入門書としても最適だ。
 渋谷の「ソフト」面での特徴といえば、ファッションの発信地であることだろう。その流行の変遷をまとめた貴重な一冊が『渋カジが、わたしを作った。』だ。私が学生の頃はDCブランドブームの勃興期~全盛期だったのだが、その後は「渋カジ」が一大ブームになる。渋カジの前身であるアメカジから含めて、流行がわずか7年間だったという指摘には驚かされた。その流れを、団塊ジュニア世代のライフスタイルという切り口で分析したのが本書である。
 自作の『Killers』(講談社文庫、上下とも972円)は、100冊目の節目に、縁の深い街を掘り下げる狙いだった。いわば渋谷クロニクル。昔から感じていた渋谷の暗部が噴出して、とんでもなくダークな話になってしまったが。
 ところで渋谷は、飲食店の入れ替わりも激しい。「30倍」の激辛カレー店や、珍しいちゃんぽん・皿うどんの専門店などの消えた店が懐かしい。一方、数十年の歴史を誇る台湾料理やカレーの名店も健在だ。「渋谷と食の歴史」を検証したらちょいと面白いはず――そのうち私が書いてみましょうか。=朝日新聞2018年12月22日掲載