最近はテレビの影響か、なんでも東京風を良しとして、たとえば寿司(すし)だったら、どこへ行っても「江戸前」ばかり。それぞれの土地に独特の風趣が、だんだんと薄れていく傾向にある。
鰻(うなぎ)の蒲(かば)焼きなども、もともと上方のほうでは直(じか)焼きで全体をカリッと焼き上げる。それに対して東京では、いったん白焼きにしたものを丁寧に蒸し上げ、脂を抜き肉を柔らかくした上で、タレを付けて焼き上げるという技法によって、ふんわりと仕上げる。
しかるに、こういう東京風が、この頃(ごろ)は全国的に広まってしまって、次第に上方風の直焼きが少なくなってきたように観察されるのは、私には遺憾なことに感じられる。
たしかに東京風は、ふんわりとした口触りで上品な風情ではあるけれど、そのかわり肉が柔らかい分、小骨が口に触ることがある。
一方の上方風の直焼きは、十分に身に乗った脂が高熱で沸き立ちながら焼けていく関係で、小骨はちょうど骨煎餅(せんべい)のように脂で揚げた形になる。仕上がった蒲焼きには小骨が感じられないというのが、まずめでたいところだ。それに、蒸さずによく焼き込んであるので、風味が濃厚で歯ごたえもめでたく、鰻の旨(うま)みもまた一段と強い。上方風は、焼き込むということで生臭さを消してもいるのである。
というわけで、私は根っからの東京人でありながら、鰻は東京風も上方風も、どちらも別の味わいとして愛好しているのである。が、しかし、東京にはこの上方風の蒲焼きを食べさせる店はほとんど無い。
以前は、そのため上方風の旨さを知らずにいたのだが、ある時、浜松で、東京風・上方風を選べるようになっている鰻屋に上がった。私はその店で上方風のカリッとした鰻を食べて、すっかりこの味の虜(とりこ)となった。その後、またああいう上乗に焼き上げた上方風が食べたいなあ、と思って、大阪でも神戸でも、姫路あたりでも、何度かトライしたのだが、いずれも東京風のフワフワで、がっかりしたものだった。
ところが最近、尾張一宮で、また名古屋で、上方風のカリカリッと焼き上げた良い鰻重(うなじゅう)に巡り合って、大いに舌鼓を打った。名古屋とくると、「ひつまぶし」と、すぐそこに結びつける傾向があるが、いやいやどうしてどうして。あのカリッと焼き上げた蒲焼きも名古屋名物の好風味の一つである。
かくて、ああ、カリカリ鰻は旨いなあと思いつつ、食べ物の多様性が次第に失われていく時世時節を、そぞろ悲しく思ったことであった。=朝日新聞2019年1月5日掲載
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