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「なぜわれわれは外来生物を受け入れる必要があるのか」書評 自然観の見直し迫る〝問題作〟

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2019年01月26日
なぜわれわれは外来生物を受け入れる必要があるのか 著者:クリス・D.トマス 出版社:原書房 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784562055937
発売⽇: 2018/11/09
サイズ: 20cm/343p

なぜわれわれは外来生物を受け入れる必要があるのか [著]クリス・D・トマス

 おいおい、これはとんでもない主張じゃないのか。生態学に詳しい同僚は、近年、話題になった類似の2冊とともに「外来種問題三部作」と断じていた。
 本書は、人間の活動による自然破壊、外来生物の影響を探りながら、「種によっては減少や絶滅のきっかけになったが、多くの種の量と地理的分布の増加につながった」ことを示す。人間による変動に対応した「生物の変化は、地球上の生命が生き残るための方法である」。それぞれに納得感がある。多くの例示に、逆の主張を展開する事例や論証も並べられそうだとの思いもよぎる。
 そもそも「外来生物」とは何か。いつの時点で存在していた生物が在来種なのか。「スタートの時期として1万年前を選べば、イギリスのイエスズメの『正しい』数はゼロ」。筆者は保護活動のあり方に疑問を投げかけている。
 地質学的な時間軸で考えると、過去に大量絶滅が繰り返され、2億5千万年前には96%の生物が消えた。その後、恐竜が栄えた時期もあり、いまの生態系もある。6回目の大量絶滅と言われる現代。人類も退場すれば、もっと多様な生態系が出現するかも知れない。
 どんな生態系を守るべきなのか。生物多様性が大切だと言っても、野生生物のためではなく、人間が都合よく持続可能に利用し続けたいということ。「人間に迷惑をかけて繁栄するものがいたとしても、それは人間の問題であって、彼らの問題ではない」「子孫たちが自然界から得る利益をどうしたら最大化できるか?」なのだ。農業も自然を大きく改変している。人間の関与は一刀両断には論じられない。
 「人類も自然の一部」も意見が割れるだろう。筆者は謝辞で「賛同した人々と同じくらい、反論した人々に感謝」と述べる。納得しても、批判的に読んでも、人と自然の関係、さらにはほかの問題で疑わなかった定説も考え直させる。
    ◇
 Chris D.Thomas 1959年生まれ。英ヨーク大の生態・進化生物学者。英国学士院の特別会員。本書は初めての著書。