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「昭和戦争史講義 ジブリ作品から歴史を学ぶ」 「風立ちぬ」「火垂るの墓」の背景にあるもの

評者: 齋藤純一 / 朝⽇新聞掲載:2019年02月02日
昭和戦争史講義 ジブリ作品から歴史を学ぶ 著者:一ノ瀬 俊也 出版社:人文書院 ジャンル:ゲーム・アニメ・サブカルチャー

ISBN: 9784409520703
発売⽇: 2018/11/28
サイズ: 19cm/240p

昭和戦争史講義 ジブリ作品から歴史を学ぶ [著]一ノ瀬俊也

 本書は、『風立ちぬ』と『火垂るの墓』を主な題材にとり、登場人物や具体的な場面を通して、関東大震災から敗戦に至る歴史への関心や再認識を導く。
 得がたい知識が提供される。少しだけ例を挙げれば、〝二郎〟たちが戦闘機の開発を急ぐ背景には、飛行機が巨大戦艦と同等以上の戦力になるという「新思想」の台頭があった。「ゲル状ガソリン」(ナパーム弾)を用いた空襲は多くの犠牲者を生みだしたが、住民に退去を禁じ消火の義務を負わせた法律もその拡大に輪をかけた。〝清太〟は打ち棄てられるようにして死んだが、生き延びた戦災孤児たちも「悪行や犯罪の病者乃至(ないし)保菌者」と目され、強制的な収容の対象となった。
 ジブリの作品も、歴史の学びももっと深く楽しめる好著である。ただただ「うつくしい」戦闘機などありえず、重慶爆撃はなぜ描かれなかったかなど、その楽しみは少し複雑になる。各講に付されたブックガイドも充実している。