これはある村のジュディが体験した物語です。
ジュディは幼い頃、両親が死んでしまったために孤児院で育てられてきました。
とてもスクスク育ち、みんなに愛され愛しの生活を送っていました。
ジュディはいつも暇さえあれば、モデルになるのが夢でテレビや雑誌の真似をしてはみんなを驚かしていました。
そんなある日の暗い暗い夜中の話だった。
ジュディや他の子達が寝しずまったころ。
部屋の窓に足の長い長いすらっとした男が影越しに映ったのだ。
ジュディはパッと夢を楽しんでいたまぶたをひろげた。
あまりにかっこいいスタイルと、なぜか目を奪われるオーラは窓越しからでもよく分かった。
ジュディの孤児院の周りには、しげみと原っぱしかなく、人がこんな時間に一人で歩くことはさも珍しく、壊滅的なことだった。
窓越しのあしながおじさんをひたすら自転車のように目を転がした。
おじさんはスキップをしたりジャンプをしたりと様々な方法を使って歩いていた。
ジュディは影越しではあるが、その愉快につられるステップに目を奪われて思わず外に飛び出した。
外は足の指が激痛になるほど寒くコンクリートは冷たくこちらを見ているようだった。
ジュディは、お母さん役のトミーに呼び止められた。
「ジュディ! なにをしてるの。早く部屋に入りなさーい!」
「トミー、ごめんなさい。誰か外にいたからつい見てしまっていたの」
「そんな人がこんな時間にいるわけないだろぉ。見間違いか動物さ」
ジュディは頭をひねりながら、見間違いではないと確信していたが、その日はしずかに寝る事にした。
そして次の夜のことだった。
昨夜のように、夢に浮かれているとまたふと月の光で目覚めてしまった。
ジュディは目を細め揺れるカーテンの先を見た。
すると、昨夜みたあしながおじさんがまたこの小屋の周りを歩いているではないか。
ジュディはドキっとした。
なぜなら、あしながおじさんはあきらかに昨夜よりこちらに近づいてきていた。
このジュディの体の底から感じる不気味さは果てしなかった。
なぜならそのあしながおじさんは明らかに足が大きすぎる。
足の長さも負けじと長いが、足の大きさはそれに見合ってないほど巨大な足だった。
まるで象のように。
ジュディは怖さが漏れてしまった。
とにかくそのあしながおじさんに見つからないように布団に紛れ息を呑んだ。
気付いたら、「おーい、みんな起きるんだぞ」。
お母さん役のトミーの声で、ジュディはハッと起きた。
昨夜のあの出来事は夢だったのか?と頭はすっからかんに感じた。
それにしても変な夢を見たもんだと、ずっと変な気持ちだった。
そしてその夜もきっと同じ時間だ。
しげみの音で目は覚めた。
またくる、とどこかで分かった自分もいた。
恐る恐る目線を、窓にずらすと、足しか見えないあの人間がいた。
どれだけ近づいたんだろう?というほどスレスレの場所に立っていた。
ジュディは体が硬くなり、目が離せなくなった。
次の瞬間、ぐにゃにゃにゃにゃにゃ と体を折り曲げた人間がこちらを覗いてきたではないか。
カーテンがあるため、シルエットしか見えなかったが、顔らしきものがこちらを覗いていた。
ジュディはハッと目を合わしてしまうと、そのあしながおじさんはジュディに手招きをしてこちらにおいで。という手振りを見せた。
あしながおじさんの顔は優しい目をしていて、女性ともみれる美しさはあるが優しい男のような姿だった。
ジュディはさっきまでの恐怖は投げ捨てたかのように気持ちがサーと明るくなり、笑顔で部屋を出て、玄関を出た。
いつも玄関の開くドアの音でトミーが走って起きてくるはずなのに、不思議とトミーも出てこない。
ジュディは外に出て、あのあしながおじさんを探した。
ザッザッザ・・・・・・
草むらを歩き自分の寝ている窓の方まで外から回ると、そこにはおっきな靴を履いたあしながおじさんがいた。
ジュディはなんだか恐怖なんて少しだって感じず、嬉しくてたまらず抱きつく。
あしながおじさんも負けじとジュディを優しく抱きしめた。
ジュディは突如現れた、このあしながおじさんに不信感などはなく、そのまま一緒にあしながおじさんが暮らす茂みの方へと入っていた。
それからの毎日は世界が変わったように楽しくて幸せでたまらなかった。
あしながおじさんはいつもジュディを新しい場所へと連れてってくれたり、とても美味しいご飯を作ってくれたりと、感じたことのない温かさを知り始めていた。
ジュディはあしながおじさんに気になっていた質問を聞いた。
「どうして、あなたはそんなに足が長いの??」
あしながおじさんは答えた。
「いつでもどこにいてもジュディが見えるようにだよ」
ジュディはふと我に返れば奇妙な答えだが、なんだか嬉しくてたまらなかったのか、満面の笑みで「そうなのね」と答えた。
ジュディとあしながおじさんは毎日をこれでもかというほど思い出を作った。
原っぱで、ピクニックだってしたし、川のほとりで葉っぱヨットで競争だってした。
冒険したりかくれんぼしたり、ジュディはあしながおじさんとたくさん時間を共にしていた。
そんなある日。
あしながおじさんはジュディをリビングに呼び出しお話をしようと言ってきた。
また楽しい絵本を読んでもらえるのかと思い、ジュディはワクワクしていた。
するとあしながおじさんは話し出す。
「ジュディよく聞いてくれ。私はもう帰る場所に帰らなきゃいけないんだ。だからジュディとは今日でお別れしなくてはならない。
ジュディをいつでもずっと見ているからね。
元気に過ごして、誰よりも幸せになりなさい。
ジュディはとっても美しく、ステキな子だよ」
ジュディは「なんで? なんでこんなに楽しいのに離れなくてはいけないの? ずっと一緒にいてよ」と涙ながらに話した。
「ジュディは一人で生きていける。周りにもトミーやお友達がたくさんいるじゃないか。たくさん人を愛し愛される人間になりなさい」
ジュディは引き止めても、なんだかそんな簡単な話ではないように感じ、「今日は一緒に寝たい」と最後のお願いをした。
あしながおじさんはまた優しく微笑んで「あぁ、そうしよう」とジュディと最後の夜を過ごした。
ジュディが大好きな絵本をたくさん読んで、眠くなる限界までずっとお喋りを楽しんだ。
そして朝起きると、あしながおじさんはいなくなっていた。
ジュディはあしながおじさんを家中探したがどこにもいなかった。
悲しくて悲しくて、涙であふれた。
リビングには一枚の紙と写真が置かれてあった。
「愛するジュディへ
ジュディと過ごした毎日は私たちにとっては一生の宝物であり一生の思い出です。
あなたとしたかったこと、見たかったものをたくさん見れて私たちは悔いがありません。
あなたが一歳になるときに、私たちは交通事故に遭い、あなたとの素晴らしい毎日を奪われてしまったの。
すごく悔しくて、そして何よりジュディが心配で心配でたまらなかった。
ジュディの姿をずっと毎日見てきて、ようやく神様から一週間だけ地上に現れていいというお許しを得たの。
もう元の姿では地上には現れることはできない、そして二人でという選択がなかったから、二人で一つのものというのが決まりだった。
フランス人形か、足のながいおじさんかで選べと言われたの。
もちろん迷わず人間を選んだ。
ジュディと遊べるようにね。
本当に素敵な一週間だった。
私たちは忘れない。
ジュディがこれからも幸せであることをずっと空から願っているよ。
ずっとずっとずっと愛してるよ。
ジュディのパパ・ママより」
読み終わったころには巨大な大涙がジュディの頬を滝のように流れ出ていた。
ジュディが怖がらなかったわけ、ジュディが一目で安心できたわけ、毎日毎日が空白の時間を埋めるように楽しかった訳がようやく理解できたのだ。
ジュディは記憶のないパパとママがこんなに素晴らしく温かな人だと知った。
パパとママが会いにきたのは、事故のあったちょうど5年後の今日だった。
その日はジュディの6歳の誕生日だった。
きっとそれは、神様がくれた誕生日プレゼント。
そして横に置かれていた一枚の写真は、優しく微笑む、パパとママとジュディの三人の写真だった。
ジュディはこれを宝物にした。
それから、ジュディは影響を受けて生と死の出会いを率先して可能にする霊媒師になり、いまも生と死の境界線を探している。
(編集部より)本当はこんな物語です!
衝撃の結末が待っていたカレンさん版「あしながおじさん」ですが、もともとのジュディもみんなに愛される快活な娘です。孤児院で育った彼女に、ある日、とびきりのチャンスが舞い込みます。裕福な紳士が奨学金を出して、大学に通わせてくれるというのです。彼女が一瞬見た紳士の姿は、車のヘッドライトに照らされ、アシナガグモのように手足が伸びて壁に映った影(!)。以来、ジュディは大学に通いながら、唯一課せられた条件である月に一度の手紙を紳士に送ります。「あしながおじさん」と呼びかけながら。
およそ1世紀前に書かれた書簡形式の少女文学の名作。手紙のなかで、思春期の少女が自立した女性へと育っていく過程がつづられる成長小説でもあります。読み進めるにつれて深まる謎は、裕福な紳士の正体。カレンさん版のジュディと同様、思わぬ結末が待っています。