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滝沢カレンの「ゴドーを待ちながら」の一歩先へ ウラジとエス、カードゲームに熱中して沖合に流され…

撮影:斎藤卓行

「おーーーーい」

「おーい」

空に広がるか細い紐のようなこえ。

太陽はにこやかに地上を見下げている。

ここは最大海洋の太平洋。

そこに気兼ねなく浮かぶ小さな島。

その島では2人の男が声を交互に出している。

その男の名はウラジミールとエスドラゴン。

ふたりは大親友でありながら、
どこか知恵が儚い似たもの同士だ。

この孤島にきて丸4日を過ごしている。

ふたりは4日前、地元メキシコのシナロア州の港で漁から帰宅し船着場にいた。

「エス、これ知ってるか?」

ウラジミールが手に持っていたのは、
1週間前に発売された超人気カードゲーム「ゴゼルツア」だった。(※日本でいうポケモンカードのようなもの)

あまりの殺到人気ぶりでゴゼルツアを手にしたものには、7日以内に宝くじがあたるというデマまで流れたまでだ。

そんな希少なカードを手にしたウラジミールは、今一番にエスドラゴンにキラキラした顔で見せた。

エスドラゴンはウラジミールの思い通りの顔をしてかけよってきた。

「おい!それ!!すごすぎるよウラジ!!!
さすがだよ!誇らしいよ、君が大親友で。」

エスドラゴンは61歳だという自分の年齢も忘れて飛び跳ねながら喜んだ。

「だろ?俺はやるときやるんだよ。ほら、エス早速2人でやろうぜ!」

と61歳の二人組は時間も忘れてそのまま漁船内に篭り一晩中、仕事も忘れて、カードゲームに熱中した。

そして気付くと、この知らない孤島に船ごと流されていたという訳だ。

こんなもんだから、村人はこの2人を全く相手にはしていなかった為、2人がいないこと2人の漁船がないこと全てに、関与する者もいない。

「ウラジ、こりゃ大変なことになったぞ、、」

「エス、お前船を係留ロープで繋いでなかったのか?!」

「・・・だ、だって、繋ごうとしたときウラジが
ゴゼルツアを見せてきたから・・・つい興奮しちゃって。すまん。」

「はぁお前ってやつは。俺も大概だが、お前もだからな、ま、だから俺らは大親友なのかもなっハハハ」

「あり得る、ハハハ」

2人は呑気を高らかにこんな時でも笑っていた。

プスープスー

「あぁ、船はガソリンが空だ。。」

「そりゃそうだな。漁から帰ったときガソリンがなかったから、明日また漁行く前に入れればいいやと思ってたんだ。」

ウラジミールとエスドラゴンは自分たちの情けなさを棚に置き、またカードゲームをし始めた。

「なぁ、ウラジ、一体僕たちはどのくらいのあいだカードゲームをして流されてしまってたんだろうな。」

「どうなんだろう。まぁ半日とかそこらだろうからそんな離れてはないと思うんだけどな」

「にしては、周りに島は全くないよ...」

「まぁ、確かに。じゃあ一日くらいは流されていたのかもなぁ。」

2人はカードゲームにまた夢中になっていた。

日は暮れ、また登る。

「なぁ、ウラジ、さすがに腹減ったよ。水だけじゃ敵わない。」

エスドラゴンがついに身体の空腹に気付き始めた。

「あ、確かに、船になんかあるか探してみよう」

幸い2人は船にお菓子ボックスを設置しており大量のポテトチップスやグミなどがあった。

「あぁうまいな、ウラジ。さすが僕たち!お菓子ボックスを作っといてよかった〜。
でもこれからどうする?そろそろ家にも帰りたいし、ベッドで寝たいね。どうやって帰ろうか?いやどうやって脱出したらいいんだ?」

「あぁ、考えてみりゃ俺も家のベッドで寝て、うまい肉を食べたい。」

「なぁなぁ、この島から帰ったら俺たちだけ時間が止まっててものすごく時間がたってたりしてな」

「わぁ!そりゃいい!周りはもうみんな年取って俺たちだけ若かったらそりゃ毎日テレビにでて、一気に有名人だぞ!そしたら大金持ちだ俺たちは」

61歳の二人組はそんな夢さえ頭に浮かべて幸せを感じていた。

だが2人は次第にここからどうやって脱出すればいいかを考えるようになっていった。

ただ致命的な知識知らずな2人は、
火の起こし方すら知らない。

「とりあえず俺らは漁師であることには違いない。肉とはいかないが、魚を取って食料を見つけよう。」

「確かに!そうしよう!」

ふたりはかろうじて漁師であることを思い出した。

そして海に入る。

だが水面は泳げるが全く潜れないエスドラゴン、そして潜れはするが目が開けられないウラジミールは何の役も果たせずに戻ってきた。

「あぁ、だめだ。目が痛くて開けれなしない。」

ウラジミールが海水にあっけなく攻撃された目を痛そうにパチパチする。

「僕も泳げるんだけど、潜ろうとすると浮いてきちゃって、全然ダメ。魚の方から来てくれたら楽なのに。」

2人は漁師でありながら、一歩海に入るとなんの動きも取れなかった。

「他の方法を考えよう」

ウラジミールがまた砂浜に腰を下ろしポテトチップスをくわえながら、考える仕草をした。

「あぁそうしよう。」

エスドラゴンも隣に座り、ポテトチップス片手に何かほかに方法はないかと周囲を見渡した。

この島は、海は綺麗なエメラルドグリーン、そして周囲はジャングルのように真緑の草木が生い茂っている。海岸は開けた海というよりは絶壁の岩壁で左右は覆わられている。

明らかに無人島と言った風貌をしている。

「なぁ、ウラジ、このジャングルの中には何が生き物いるのかな?」

「怖いこと言うな。いるわけないだろ!こんか無人島に。第一どうやってここで生きていけるんだよ!」

ウラジミールは持ち前の怖がりを発揮していた。

エスドラゴンはどうもジャングルの中をやけに気にしていた。

「でももし、何か食料になるフルーツとかあったら、、、」

「そんなもん探す前に、ここから出る手段を考えろ!」

「でもガソリンは空だから、また波に任せて一か八かで進むしかないね。でもそんなことをして今よりももっと家から遠くなっても困るし。何か助けみたいなものは呼べないのかな」

「お!助け!その手があるじゃないか!」

ウラジミールは駆け込みながら船に入ると、
ありとあらゆる機械系を探した。

「どれだったけなー」

「でもウラジ。ガソリンは切れてる。無線も使えなきゃGPSもきっと発見してもらえないね。」

エスドラゴンは案外役に立つ情報をウラジミールに伝えた。

「あぁ、そうか。じゃあ手紙を書いて瓶に入れて海に流そう」

あまりにも、現実離れした夢気分な方法で2人は腑に落ちた。

ウラジミールは、船の中にあった紙にペンで手紙をかきはじめた。

"ウラジミールとエスドラゴンはしらない島にいる

船が流されてしまった。

船のガソリンは0。

助けがほしいです。

誰かこの知らない島にいる僕たちを助けてください。"

「どうだ?これでいいだろ?」

ウラジミールが書き終えるとエスドラゴンが何度も読み直した。

「でもこれじゃあ、どの島に助けに行けばいいかわからないよね。この島の特徴とか絵をかこうよ!」

「おぉ!ナイスアイデアだ!エス、お前は絵が上手いだろ?書いてくれ」

エスドラゴンがこの島を描写した絵を添えた。

「これできっと助けがくる!願いを込めてこの瓶に名前をつけよう」

「ん〜。神に祈るにかけてゴッドは?」

「それじゃあありきたりすぎるだろ?
じゃあ捻りをきかせてゴドーはどうだ?」

「わぁ!いいね!さすがウラジ!」

なんの捻りも発揮できていない名前に簡易的に決定した。

イラスト:岡田千晶

2人は陽が溢れるほど降り注ぐ海に、瓶ことゴドーに願いを込めて流した。

「よし!これで俺たちの未来も助かったようなもんだな!じゃあポテトチップスでも食べながら待つか」

「そうだね、きっと誰か見つけてくれるよね!」

ウラジミールとエスドラゴンは、
なんと瓶を海に浮かべただけで助かった気満々になった。

幸いなことに、ポテトチップス、グミ、コーラ、水は船に溜めていた分、2人は呑気に未来を見据えられた。

2人はお菓子の過剰食でいつのまにかいい夢を見ながら寝てしまった。

---

「おーい!おーい。大丈夫か?ウラジミール!エスドラゴンー!」

島に2人以外の声が響いた。

「んあぁ?・・・・・・あ!!!おい!エスドラゴン!助けがきたぞ」

「んん?あぁーーあ」

おっきなあくびをしながらエスドラゴンが起きた。

「わぁあ!ほんとうだ!ゴドーが届いたんだ!!僕らいったいどのくらいの間寝ていたんだろう」

物凄い長い長い間眠りについていたと、不安に襲われていた2人。

「なんだ?からかってんのか?」

助けに来た数人が2人に近寄る。

「!!!アイールにランセルにトッポロじゃないか。」

みんな漁仲間たちだった。

「俺たち知らぬ間に流されちまってこんな島にきちゃったんだ。それでもうどうしたらいいかわからなくてよ。まぁお菓子と飲み物には苦労しなかったぜ」

とウラジミールは説明した。

「お前ら正気か?ほんとにお前らときたもんは、、、」

と、トッポロが呆れた。

続けてアイールが2人の目の前でしゃがみ込み半笑いで話を続けた。

「お前たち、ここはお前たちの住む島だよ。お前たちはな、流された気でいたが、この木々を越えたらいつもの見慣れた街があんだよ。つまりお前たちは、ぐるっと島の反対側にいただけ。まぁここは穴場の避暑地だから確かに人通りは少ないけど、あと数日いたらどちらにせよ遊びに来た人と遭遇してただろうな」

「え?!うそだろ、、、、」

ふたりは生き生きした顔色を白くさせながら自分たちの情けなさに浸った。

「波の流れがここは一定だから、お前たちの手紙も砂浜にしっかり届いてな、今朝うちのチビが見つけて持って来たんだよ。お前たちまた家でくだらないゲームでもして仕事こないんだと思ってたけど、こんな近場で迷子になってるなんて心底笑えるな。」

アイールにランセルにトッポロはガバガバとありえない現状に笑いだす。

「僕たちは一体どのくらいいなかったんだ?」

エスドラゴンが恐る恐る聞く。

「ん?、3日?いや2日とかだな」

「え・・・・・」

2人はあまりの恥ずかしさに下を向くしかなかった。

「いやいやお前たちらしいよ。だってここは流される場所がまずないからな。ここまでぐるぐる来たことも珍しいよ。お前たちにとっちゃ大冒険になったんじゃないか。ハハハ。」

2人はただ地元の島の反対側で2人で遊んでいただけだった。

あっけなく、瓶に入った手紙で自分たちが島の反対側にいたことも知り、自宅に帰ることができた。

2人は61歳この島から出ずに生きて来たのに島を知らなすぎる男たちとして3年間ちょっとした噂になったが、エスドラゴンが夢みた有名人には程遠かった。

そんな2人は今も仲良く、島から出ることなく幸せに暮らしている。

(編集部より)本当はこんな物語です!

 田舎の路上で浮浪者のウラジミールとエスドラゴンが、ひたすら「ゴドー」を待ち続ける物語。ゴドーが何者なのかは明かされず、2人は雑談に明け暮れ、通りがかりの人物と謎の問答を繰り広げます。フランス現代演劇を代表する劇作家サミュエル・ベケットの戯曲は「不条理演劇」の名作とされ、半世紀以上経った現在も世界各地で上演され続けています。

 原作では最後まで登場しないゴドーは何者? もし姿を現したら? 幅広い解釈の余地を残した戯曲だけに、日本でも想像を巡らせた多数のオマージュ作品が発表されています。最近では2024年8月から再演された鴻上尚史さん作・演出の「朝日のような夕日を連れて」(初演1981年)が大きな影響を受けた作品として知られ、劇中にはゴドーを名乗る人物も現れます。