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米澤穂信さん「本と鍵の季節」インタビュー 小さな世界超え、変わりゆく関係

補い合う男子高校生コンビ 謎解きと成長

 デビュー作『氷菓(ひょうか)』をはじめとする「古典部シリーズ」は、アニメ化や実写映画化もされ、累計230万部を突破。青春期の若者を描くミステリーに定評のある著者が、再び高校を舞台に6編の物語を紡いだ。
 「僕」こと堀川次郎は、ごくふつうの高校2年生で図書委員。背が高くルックスも良いが、ややシニカルな雰囲気を漂わせる松倉詩門(しもん)と依頼に向き合っていくうちに、松倉自身の複雑な心の内にも分け入っていくことになり――。
 問題解決のカギは、程よい距離感での何げない会話のなかにある。「高校生なので、名探偵然として振る舞うには早すぎる。どちらが探偵役という風にもしたくなかった。互いに足りないところがあり、それを補いながら、ともに成長していく話にできればと」
 タイトル通り、書籍が物語の軸となる。第4話「ない本」では上級生から、自殺した友人が読んでいた本を探してほしい、との相談が舞い込む。しかし、貸し出しの記録を外部に漏らすことは、実は日本図書館協会の綱領「図書館の自由に関する宣言」に触れる行為だった――。本や図書館にまつわる意外な知識をちりばめており、読書家の心をくすぐる仕掛けも満載だ。それでも大学卒業後に書店員をしていた知識や本好きの固定ファンに甘える気持ちはない。「時を超えて、手にとってもらえる小説を書いていきたい」と思うからだという。
 本作で書きたかったのは、堀川と松倉の関係性の変化だという。学校や図書室という小さな世界を超え、時には町へも繰り出す。そして、お互いを知り、お互いに知り得ないことがあることも知っていく。終盤は松倉自身の思い出の宝探しに始まり、ほろ苦いラストが待っている。
 「家庭環境の話なんて、学校の中では放課後でもあまりしないですよね。でも、学校の外に出ると、全然知らない一面が見えることがあります。ミステリー小説を通じて『人間』を描きたいと思いました」
 年の離れた高校生を描くことに苦労はなかったのか。「青春時代の特有の感覚を『ひりつき』と呼んでいるんですけど、それはやはり次第になくなってしまいます。ただ、松倉は様々な事情で、大人の世界に半歩早く踏み込まざるを得なかった。松倉を接点にすることで、高校生の彼らを書くことができました」
 ミステリーの仕立ては「散歩しながら考えるのが基本」。岐阜県高山市出身で、小学生の時は片道1時間かけて通学していたという。枕元に付箋(ふせん)を置き、ベッドボードに貼ってアイデアをためておくことも。「使ったらはがすのですが、使っていないものばかりで困っています(笑)」
 早くも続編を期待する声が、読者からあがっている。「社会人になると、自然にフェードアウトしてしまう関係はさほど珍しくない。ですが、学校は小さな世界で、月曜日になればまた授業が始まる。僕もまた彼らに出会えるかな、と思っています」(宮田裕介)=朝日新聞2019年2月13日掲載

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