堺屋太一さんが近未来小説「平成三十年」を朝日新聞に連載したのは、1997年からの約1年間。平成9年の地点から約20年後の日本を予測し、警鐘を鳴らす狙いだった。団塊ジュニアの官僚を主人公に、20年後の暮らしや改革をはばむ政官界の姿を描いた。
堺屋さんが晩年まで、この「平成三十年」を代表作の一つとして大事にされていたと聞いたときは、駆け出しの文化部記者として担当していた当時を恥じ入るばかりだった。担当する前に知っていたのは「団塊の世代」の名付け親であること。そして「サン(三)ピンイチ(一)スケ」(堺屋さん以外は渡部昇一さん、竹村健一さん、深田祐介さん。一をピンと読んだ)と称される売れっ子評論家だということくらい。
でも堺屋さんは、そんな未熟な若者の意見にも真剣に耳を傾け、一緒に取材をしてくれた。むしろ、20年後を大胆に予想するときに、毎年の人口の増減や経済動向の予測をチャート化して準備することなど、私のほうが堺屋さんの手法を学んでばかりだったというべきだろう。
いま思うと、「大局の人」であった堺屋さんが、大きすぎて見えなかったのだと思う。「平成三十年」を構想するときに「明治74年目に日本は太平洋戦争に突入した、戦後の日本は戦後74年目の平成30年にどうなるだろうか」と話していた。歴史学者であれば「禁じ手」の見方なのかもしれないが、細部にこだわり過ぎると決して見えないものがあることを教えられた。
数年前にお会いしたとき、改めて「平成三十年」について「当たったこともあれば、外れたこともある。だが、時代の雰囲気は見事なまでに当たった」と振り返っていた。最も的中していたのは地方やニュータウンの過疎化だった。
晩年の堺屋さんは、「平成三十年」につながる「(新たな元号)プラス20年」を書きたい、と親しい編集者に話していたという。「平成三十年」を「何もしなかった日本」と見抜いた大局観が、どんな未来を構想するのか読んでみたかった。
(加藤修)=朝日新聞2019年2月13日掲載
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