香りは、秘められた、ごく私的な記憶、イメージと密接に結びつく。プルーストの『失われた時を求めて』が描くように、香りはこつぜんと過去のイメージを呼び覚ます。演出家・作家の久世光彦も随筆集『花迷宮』で、昭和天皇とキンモクセイの香りの断ちがたい絡まり合いを明かしている。
古今東西、香りは様々に記されてきた。ことに日本の美意識は嗅覚(きゅうかく)的体験を雅致豊かな「香道」にまで洗練させた。内野花著『日本を彩る香りの記憶』(大阪大学出版会・1728円)は、歴史を一望しながら香りの魅力を紹介する“履歴書”だ。古代の「日本書紀」から近代へとひろげ、「祈り」「恋」「バサラ・カブキたち」「義」など項目立てを工夫している。沈香(じんこう)、丁子(ちょうじ)、白檀(びゃくだん)、薫陸(くんろく)、麝香(じゃこう)……。装束に香を薫習させた貴族の奥ゆかしさ、伽羅(きゃら)を惜しげもなく火にくべたバサラの豪放さなど、文化的表徴は興味が尽きない。
アロマが生活を彩る昨今。本書は、心の平穏を、官能の揺さぶりを導く香りの知見を磨くための入門書といえる。(米原範彦)=朝日新聞2019年2月16日掲載
編集部一押し!
-
季節の地図 測ってみると 柴崎友香 柴崎友香
-
-
インタビュー 「マンガ 赤と青のガウン」彬子さま×三宅香帆さんトークイベント 心情が際立つ漫画と日本美術の「余白」 吉川明子
-
-
一穂ミチの日々漫画 都会「箱の男」(第10回) 箱に隠された家族の闇は 一穂ミチ
-
小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 苦節11年目の芥川賞・畠山丑雄さん「自分の小説と文芸界を信じてました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。(特別版) 清繭子
-
ミュージシャンたちの読書メソッド MONO NO AWARE 玉置周啓さんが選ぶ4冊 生活の中の感覚を、本が呼び起こす 李恩知
-
鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第36回) 未来を映すディストピア小説の収穫「吸血鬼」と「タイム・シェルター」 鴻巣友季子
-
インタビュー 平石さなぎさん「ギアをあげて、風を鳴らして」インタビュー 描いてわかった「シスターフッド小説」の魅力 PR by 集英社
-
インタビュー 江國香織さん「外の世界の話を聞かせて」インタビュー 頭の風通し良く、気持ちさっぱり自由になって PR by 集英社
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版
-
インタビュー 湊かなえさん「暁星」インタビュー 作家として「言葉」に向き合い、新たな扉開いた PR by 双葉社
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社