長い時を経て紡がれる人間とアンドロイドの恋(井上將利)
いよいよ本格的な冬が到来。厳しい寒さに心が折れかけている今日この頃ですが、そんな時は心温まる物語に触れて頂きたいですね。
ということで、皆様に温もりをお届けするべく、今回ご紹介させて頂くのは山中ヒコさんの「500年の営み」(祥伝社)。冬の寒さを連想させるような、そして少し儚さを感じる表紙も印象的な作品です。
ある朝、大学生の山田寅雄はテレビのニュースで幼馴染の恋人、太田光が事故死した事実を突き付けられます。そして恋人のいない世界に絶望し自分も後を追って飛び降り自殺を図るのですが、次の瞬間、何故か自室のベッドで目覚めた寅雄。しかも傍には死んだはずの恋人の姿が……。
そこは250年の月日が経った未来。
寅雄は長い間冷凍保存され蘇生したことと、太田光だと思った存在が恋人に似せて作られたアンドロイド“ヒカルB”という事実を知り愕然とします。しかもヒカルBの見た目は中途半端に恋人に似ていて「私はあなたのお役に立ちます」というぎこちない言葉と共に二人の奇妙な生活が始まって行くのでした……。
なんとここまでが第1話。怒涛の展開に寅雄と一緒にあたふたしてしまいますね(笑)
その後、ヒカルBはパートナーとして懸命に寅雄のお世話をするのですが、食器は割るしリンゴも剥けないといった不器用“品質”。そんなヒカルBに対し、本物とのギャップに苛立ちを隠せない寅雄は「偽物」と言い放ってしまいます。
けれどもヒカルBはアンドロイド。「ごめんね」と言って、それでも懸命に働き続けるのでした。
その姿を目の当たりにして寅雄は自分が抱く苛立ちの矛先が分からなくなりつつも、しかし同時にヒカルBという一つの存在を少しずつ認めていくのでした……。
本物の3割減、質の悪い模造品、寅雄が抱くヒカルBへの複雑な感情は読み手にもひしひしと伝わってきます。
それと同時に、もしヒカルBが本物そっくりで完璧なアンドロイドだったなら、
「それは“本物”なのか?そこに偽りのない愛情が芽生えたのだろうか?」
「“偽物”はまがい物にしかなれないのか?」
「本物とは……?」――。
そんな問いかけが我々読者に投げかけられているようにも感じられます。
さて皆さんはどう感じるでしょうか。
この物語はさらに深く、そしてさらに250年先へと続いていきます。彼らの未来には何が待ち受けているのか、そして「本物」の答えを探しに500年間の長い旅路を辿ってみてはいかがでしょうか。
無人島でのほのぼのライフから一転!ドラマチックなSF BL(キヅイタラ・フダンシー)
寒い日が続くと外に出るのも億劫ですね。ほっこりするBLを読んで、毎日ぬくぬく過ごしたいものです……。今回「寒い冬にほっこり。心温まる感動BL」として、紹介させていただくのはこちら!
まりぱかさん「エンドランド」(心交社)。
美麗でちょっと儚さのようなものを感じる表紙にハッと目を引かれ手にとった一冊です。
舞台は人が暮らすのも難しくなってしまった近未来の地球。とある島で暮らす、いつきとジュンは、たった二人で毎日を生き抜いています。
いつきは島に流れ着いてから2年間も眠っていたらしく、前後の記憶がありません。でもジュンのことが大好きで、一緒に生きていくことを願っています。その日暮らしの大変そうな生活ですが、誰にも邪魔されることのないノンビリとした二人の時が流れていくのは、見ていてなんだか楽しそうです。食卓に並ぶ料理となる不思議な魚(?)たちも、本作の隠れほっこりポイントなのでチェックしてみてください(笑)
最初は終末の世界でたくましく生きる二人の“ほのぼの系ボーイズライフ”という感じの作品なのかな、と思って読み進めていましたが、まさかの展開が待っていたのです……!
ある日、中から人の声がする何かの装置をいつきが発見することで、物語は大きく動き出します。なぜいつきとジュンは一緒にいるのか、なぜいつきは記憶喪失なのか、なぜ二人はこの島に流れ着いたのか、二人のこれからはどうなるのか――。明らかになる驚きの過去と二人がそれぞれの未来を想うがために下す決断。本書で確かめて欲しいので詳しくは書けませんが、本当の気持ちを抑えながらも前に進む、二人の言動・表情ひとつひとつに目頭がジーンと熱くなります……。大切な人のために想うこと、頑張ること、願うこと、そういった純粋な気持ちに心打たれました。読み終わった後で表紙を改めて眺めると、ジュンの表情の意味も分かるような気がします。
この物語がどのような結末を迎えるのか、ぜひ皆さんにも読んでいただきたいのですが、ひとこと……。めちゃくちゃ感動した!!
二度目だからこそ熱く燃え上がる復活愛(貴腐人)
ふだんはコミックスばかり紹介していますが、今月は初の小説作品、宮本れんさんの小説「一度なくした恋の続きを」(オークラ出版)をご紹介いたします。
ベーカリーコンサルタント会社勤務の緑川 桂(けい)は、ベーカリー再建の依頼をしてきた大学時代の親友で恋人だった加賀誠一郎と再会。
気まずさもあるが、仕事とはいえ会って話せば楽しい。でも、感情がない交ぜになって気持ちが乱れているところに誠一郎から「昔の思いを終わらせるために期間限定でもう一度付き合おう」と提案される。
桂は10年前に自然消滅で終わったと思っていた誠一郎との恋が、誤解と思い込みと話し合わなすぎ、という若さゆえの意地の張り合いで別れていたことを思い出し、一方の誠一郎は、自分の性的指向がゆえにもともと異性愛者だった桂を追い詰め、距離を置かれてダメになったと思い続けています。
認識の違いを埋めるために二人で話し合う、ということがなされなかったのが若さゆえね~と思いながら、「認めたくないものだな、若さゆえの過ち……」と何度呟きながら読み進めたことか。
その思いを埋めるため、「別れるために付き合う」という手段に出る誠一郎。意外に勝負師です。再び付き合い始めれば、すごく楽しくなり、仕事にもプライベートにも充実感があったが別れのタイムリミットが近づくと、ぐるぐるこじらせる桂。
ぐるぐるしている桂に対して誠一郎は期限最終日に別れではなく、再度付き合おうと口説き落とすんですよ~~。
誠一郎が桂をずっと好きだったというのは、読んでいると判るのですが、桂視点で物語が進んでいるため、誠一郎の恋愛感情描写が少し薄いかな?なんて思っていたら、最後の最後で石窯の火の如く熱い想いをぶちまけてくれました!
「この十年間、片時も忘れたことはなかった。これからもおまえ以外は好きにならない。だから安心して俺に愛されてくれ」
……。……。きゃあああああああ~、情熱的ぃぃぃ。壁になりた~~~い!
最初に出てくる「石窯ベーカリーK」という店名、ショップカードのイラスト、店内内装の建材。これら全てが誠一郎の桂への愛の伏線として回収されるというか、のろけられるというか、本気度を見せられます。
どんだけ、好きなんだ。内装に使われた木の名前を見て「もしかして」と思ったとおりでしたが、まさか店名とショップカードまでとは……。
「石窯ベーカリーK」は、桂のための店です。このひと言につきます!
腕のいいパン職人と経営のプロであるコンサルタントでがっぽり稼いで、お幸せに!
最後にオイシイ脇役のご紹介。
誠一郎の幼馴染で兄的存在の朝日奈。大手金融会社勤務でたいそうな美人さん。冷たそうに見えるけど、誠一郎とのやり取りを見ると面倒見がよさそう。めっちゃタイプです。
桂のぐるぐる状態に付け込んで告白し迫ってくるデキる後輩・沢木。ちょっと自己評価高杉くんなとこもあるけど、いいヤツなのよ。でもワンコの振りしたオオカミって感じ。
ぜひともこの二人でスピンオフを希望します。