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「立体交差」 高架に美と艶を見いだす写真集

評者: 宮田珠己 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月02日
立体交差 ジャンクション 著者:大山 顕 出版社:本の雑誌社 ジャンル:写真集

ISBN: 9784860114244
発売⽇: 2019/02/13
サイズ: 19×22cm/225p

立体交差 ジャンクション [著]大山顕

 道路の立体交差など真剣に見たことがなかった。それは街の異物として、どちらかというと見て見ないふりをしてきた対象だ。
 一方で、工場やビルを美的な観点から鑑賞する昨今の流行のなかで、ジャンクションも見られる対象になりつつあることはうっすら感じていた。「工場萌え」などのムーブメントを牽引してきた著者の着眼はさすがである。
 立体交差といって思い起こされるのは、本書で著者自身も言及している日本橋の問題である。歴史ある美しい日本橋の風景を首都高の高架が台無しにしているというあれだ。高架を撤去し道路を地下へ移行させる方針も発表された。
 「日本橋に空を取り戻す」というスローガンは、現在の景観が悪という前提に立っているが、著者はむしろ首都高があるからこそ日本橋の景観はすばらしいものになっていると主張する。
 15世紀に橋の下を流れる川が整備され、江戸時代になって日本橋がかけられた。現在の橋は1911年製。その上に前回の東京オリンピックの前に作られた首都高がかかる、という交通インフラの歴史が一望でき、地下には地下鉄も交差して土木のミルフィーユのよう、とこれを評価する。そんなに「空」が欲しければ、首都高の上にさらに橋をかけたらいいとまで言い切る発想は面白い。
 ただ私には歴史の蓄積云々というより、著者自身が立体交差の形状そのものに美を見出し、それを艶のあるものとして表現したことに強く惹かれる。この写真集が放つ艶の正体はいったい何なのか。
 子どもの頃、工事現場や建設機械が持つ何かに惹かれた。そこには明らかに魅力があった。一定数の子どもが同じように感じるとすれば、人間という自然のなかに、この艶を求める嗜好があるということだ。
 空の見える広々とした景観VS.立体交差のもつ艶。そんな真っ向勝負の議論も聴いてみたい。
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 おおやま・けん 1972年生まれ。フォトグラファー、ライター。著書に『団地の見究』、共著に『団地団』など。