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親が嫌がって子供が喜ぶ絵本を作ろう! よしながこうたくさん「給食番長」

文:根津香菜子、写真:有村蓮

いい意味で給食のトラウマを与える絵本にしたかった

――好きなメニューの日は待ち遠しくてワクワクしたり、苦手なものが入っていると食べ終わるまで残って頑張ったり……。誰でも学校給食には思い出の一つや二つあるもの。福岡県在住の絵本作家、よしながこうたくさんのデビュー作『給食番長』は、好き嫌いばかりする「番長」たちと、給食を作る「おばちゃん」(学校給食調理員)たちが繰り広げる物語だ。番長率いる1年2組からは、毎日たくさんの給食が残って返ってくる。何とか残さず食べてもらおうと奮闘するおばちゃんたちだが、みんな言うことを聞かない。本作を描くにあたり、地元の小学校を取材したよしながさん。給食のおばちゃんたちが働いているところを調理室の外から見て、その働きぶりに感動し、改めて給食のありがたさを感じたと言う。

 みなさん朝早くからドラム缶みたいな鍋の中を片腕でヘラを回したり、酢の物は子供たちの舌に合うように酸味を抑えたりして、毎日一生懸命作っているんです。そんな思いがつまった給食が残って返ってくると、見ている方も悲しくなりました。

 僕は昔から「ご飯を残すな、捨てるのはもったいない」っていう感覚がすごく強いんです。祖母が寺の人間で、小さい頃に『地獄と極楽』という漫画を読んでいたんですが、そこには鬼たちが人間を火あぶりするシーンとかが遠慮なく描かれていて「悪いことをするとお天道様が見ている」と、自分で自分を律するような内容を未だに覚えているんです。なので、今作では「この給食は嫌いだから残しちゃえ!」と子供が思った時に、作ってくれたおばちゃんたちの顔が浮かんでくるような、いい意味でのトラウマを子供たちに与えるような内容にしようと思ったんです。

「給食番長」(好学社)より

――ある日、おばちゃんたちは「いえで」する。代わりに美味しい給食を作ってやろうと張り切る番長(と3人の子分)だが、クラスメイトから「まずくて食べられない!」と言われ、初めて「自分たちのために給食を作ってくれるおばちゃんたち」の存在に気づく。

 この作品では、「ごはんを残すんじゃないよ」ということよりも、給食を作ってくれる人がいることに気づき、自分の周りには他者がいるという想像力を持ってほしいと思いました。思いやりは想像力なので、そこを発展させていくと動物や雲、石など、あらゆるものに思いやりをもつようになります。夢を持ち続けるのも想像力だということを、伝えていきたいですね。

――絵本とは縁遠く、イラストレーターとして活動していた頃に、ある出版社から「給食番長」というタイトルで絵本を描いてみないか?という無茶ぶりのお題をもらって描き上げた。発売当初は読者からの反応も様々で「大好きです」という人から「絵が汚くて、あなたは絵本作家にふさわしくない」といった内容の手紙が毎月送られてきた。

 当時は絵本作りのルールを全く知らなかったので、17場面中にどうやって起承転結を入れ込もうとか、どうしたらおばちゃんたちが給食を作らなくなるんだろう、とストーリーは悩みまくりました。本当はもっと自分が入れたいシーンがあるのに、そこにたどり着けない難しさがありましたね。読者からの反応も、元々きれいな絵とお話が多い絵本業界で、僕が描く激しめの絵と内容は、子供は喜んでくれるけど親は嫌がるんだなということを知りました。そうやって子供が喜ぶものを大人が奪い取っていくのだとしたら、僕は子供の味方でいてあげようと思ったんです。親が嫌がって子供が喜ぶ絵本を作ろうと燃えましたね。

――給食が残って返ってくるのを悲しむおばちゃんたちの悲壮感あふれる表情、給食を残さないよう注意すると暴れる子供たちなど、登場人物たちの動きや喜怒哀楽が強調して描かれているのが、よしなが作品の特徴だ。

 僕は絵本を舞台と捉えているので、登場人物の動きも大きめに表現しています。あとは白目を描いていないので、目線が送れないようにして各キャラクターの動きを大きくしています。そうすると一枚の絵の中に流れができて、いろんな場所で物語が発生しているんです。例えば、ここでは野球をやっていて、ここにはウサギが隠れていて……とか。目で追いかけるうちにアニメーションっぽい動きになって、見ていて飽きないよう意識的に作っています。

 自分が子供の頃、どうやって絵本を読んでいたのかなと思い出してみたら、ベッドに好きな本を持っていって読んでいたんですよ。今の子供たちの絵本の読み方を見ると、同じように寝ころびながら読んでいるんですよね。なので、この体勢で見た時の彼らの目線で追いかけた先で色んなことが起きているように描くと、その世界にすっと入り込めるんです。

「給食番長」(好学社)より

この10年は「給食番長」の絵本が名刺代わり

――「ローカルから発信する絵本にした方が面白いんじゃないか」という当時の編集長からの提案で、各ページには本文の内容と同じ意味の博多弁が記載されている。よしながさんのホームページには、各地から集まった自分たちの土地の言葉に翻訳した「他方言版」も。それぞれの地域の方言によって微妙にニュアンスが変わり、同じ作品でも新鮮味が感じられる。

 北海道や東京で博多弁の読み聞かせをするとみんな面白がって聞いていますよ。博多弁では語尾に「~くさ」とつけることが多いんですが、作中に「まぁ、この番長くさ」というセリフがあるんです。それを聞いた子どもから「番長って臭いんですか?」と質問されて、耳から聞いた言葉の面白さや気づきの一つになっているんだなと思いました。

 方言って世代や住んでいる地域で少しずつ違うんですよ。正式な方言に直そうとすると結構大変なので、巻末に「これは作者が生まれ育った地域の博多弁です」と言い訳を書いています。取材した給食のおばちゃん達にも「こういう時、みなさんは博多弁でどういう風に言います?」って聞いてセリフの参考にさせてもらいました。僕自身も博多弁を聞いて育っているので、標準語よりも心の中にすっと入ってくるんです。読む人それぞれが自分の育った言葉で聞いて話す方が聞き取りやすいと思いました。

――北は北海道から南は沖縄まで。講演会や読み聞かせの依頼があれば自作の被り物やぬいぐるみなどを携えて全国を周っている。

 最初に何かしら刺激を与えないと子供たちが帰ってしまうので、三線を弾きながら登場します。会場では子供たちに好きな物を言ってもらい、それらをどんどん合体させていくライブペインティングもしています。子供たちが何十人いても全員に聞くようにしていて、出来上がった絵は会場に寄贈します。その会場でどんな絵が出来上がるか最後まで分からないから面白いです。

 読み聞かせはほとんど『給食番長』ですね。博多弁で読んでほしいというリクエストが一番多いので、僕が読むのが一番うまいんじゃないかと思っています。この絵本が出版されてからの10年は『給食番長』が僕の名刺代わりみたいなものですね。