内田裕也さんには何度か会った。まっ白な長髪、杖、白いシャツに黒ジャケット。目立つ。立ち居振る舞いの、どこを切りとっても「ロケンロー」。和製の、彼だけの、ロックンロールだった。
わたしもそれなりに硬くなって取材していた。じっさい、同行した編集者は途中で「おまえ、なめてんのか?」と言われ、ぶるぶる震えていた。こわもてのイメージを演出するような、虚実のあわいを生きるような。そんなスタンスを含め、かっこよかった。
裕也さんは、歌手で俳優でプロデューサーで政治活動家だった。ただ、なにをしても太い筋が通っていた。つまりロックンローラーだった。
ロックンローラーとは音楽家ではない。存在じたいが「事件」の人。そういう人たちがかつてはいた。ボブ・ディランやビートルズやジミ・ヘンドリックス。音楽だけでない。生き方、ファッション、男女関係、政治、人種や民族差別への反感、平和の夢想……。ギターで世界に刃向かい、そんな理想を歌い、なんの矛盾も、うそくささもない時代が、かつてあったのだ。
1960年代になぜカウンターカルチャーが社会的な事件となり得たのか。経済学者のポール・クルーグマンは、単に「経済がよかったから」と書いている。「オルタナティブ(非主流)なライフスタイルを選択しても、いつでも正社員に戻れる」。成長経済のそんな安心感のおかげで、カウンターカルチャーが若者の間で燃えあがったのだと。
ことの正否はここで問わない。だが、いまどの先進国でもリベラルが退潮し、カウンターカルチャーにかつての力がないことと、符合してはいる。
裕也さんは、カウンターカルチャー全盛の60年代後半、本場でロックの風に当たってきた。そこでの影響を日本に持ち帰った。フラワー・トラベリン・バンドを結成した。その後、俳優として怪演を見せ、都知事選に出馬して英語で演説し……。売名行為と批判された行動も、裕也さんのなかでは筋が通っていた。事件としてのロックンロール。ラブ&ピース。分断でなく寛容を説く。それも、かっこよく。反逆的に。
ロックンロールが事件としての力を失うのと反比例し、裕也さんの決めぜりふ、「ロケンロー」はウケた。輝いた。あんな時代は、望んでも再現し得ない。哀惜とともに、みんなそう、分かっていたからなんだと、わたしは思う。(近藤康太郎)=朝日新聞2019年3月20日掲載
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