ナカムラケンタさんが選んだ「はたらく」を考える本
- 『自分の仕事をつくる』(西村佳哲、ちくま文庫)
- 『ファンタジア』(ブルーノ・ムナーリ[著]/萱野有美[訳]、みすず書房)
- 『人生の100のリスト』(ロバート・ハリス、講談社+α文庫)
- 『インターネット的』(糸井重里、PHP文庫)
- 『新ネットワーク思考』(アルバート・ラズロ・バラバシ[著]/青木薫[訳]、NHK
出版) - 『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン[著]/伏見威蕃[訳]、日本経済新聞出版社)
- 『ジンメル・つながりの哲学』(菅野仁、NHK出版)
「はたらく」を考える本(1)|『自分の仕事をつくる』
やっぱり一番影響を受けているのは『自分の仕事をつくる』。著者で働き方研究家の西村さんがいろんな職場を訪ねて、感じたことや考えたことを書いた本です。
社会人になる前か、なったばかりのころにこの本を読んで、仕事のイメージが変わったんですよね。僕は不動産会社に就職して商業施設などの企画運営をしていたんですが、仕事に対して「あきらめなきゃいけないもの」「我慢しなきゃいけないもの」っていうイメージがあって、仕事って自分に合わせるというよりも仕事自体や相手ありきのものだとばかり思っていたんです。もちろん今でもそういう部分もあるとは思っているんですけど、この本を読んで自分を「無」にする必要はないということが腹に落ちました。本には自分自身で納得した仕事をしている人がいっぱい出ていて、それが特別な感じではなかったんですよ。もしかしたら自分にもできるんじゃないかなって。
いま働いていて、昔の僕と同じように仕事をあきらめている人に読んでほしいですね。仕事とプライベートを完全に「オン」「オフ」と切り分けていて、でもそんな状態にちょっと疑問をもっている人。そういう人には何か響くものがあるんじゃないかと思います。
「はたらく」を考える本(2)|『ファンタジア』
イタリアを代表するクリエイター、ブルーノ・ムナーリの『ファンタジア』は、自分の殻を破ることに気づかせてくれた本。「ファンタジア」って何かというと、「これまでに存在しないものすべて。実現不可能でもいい」とムナーリは書いています。
たとえば、職業もそう。僕は学生時代に建築を学んでいたのですが、(将来の)職業は建築家でもデベロッパーでもないんだよなと思っていて、何か場所に関する仕事をする人なんじゃないのかなと思っていたんですよね。そんなことを考えている時にこの本を読んで、世の中にはまだないものがたくさんあるのだから、既存の職業という与えられた選択肢の中で選ばなくてもいいということを教えてもらいました。自分が知っているものって限られた小さなものなんですよね。今は言葉にもならなくて自分が漠然とイメージしているようなことでも、仕事にできるんじゃないのかなって思いました。
これは職業に関することだけじゃなくて、いろんな可能性があるということが(本にある)様々な実例からわかって、可能性を実感できるんです。人類全体をとってみてもまだまだいろんな可能性があるということを考えさせられます。
「仕事ってこういうもの」みたいなものがあるけど、もっと柔軟に遊び心を入れることで創造的なものになる。子どものような感覚で仕事に向き合いながらも、知識や経験は積み重ねている状態っていうのがいいですよね。日々の仕事も、生き方ももっと柔軟でいいんじゃないかと考えさせられました。
「はたらく」を考える本(3)|『人生の100のリスト』
『人生の100のリスト』は、ロバート・ハリスさんが人生でやりたいことを100個書いて、それを実現させていった実録。コンセプトだけだと、けっこうありがちなんですけど、1個1個がぶっ飛んでいるんですよね。
たとえば「男と恋をする」っていうのがあるんですよ。僕はノーマルなので今のところまだそういう経験はないんですけど、たしかに自分は異性のことしか興味はないって今は思っているけど、(先のことは)わからないなって。何事も決めつけちゃいけないなって思いました。
読んだ時は100のリストを考えてみたんですけど、結局はふと思い立った時に見直してみるくらいでいいのかなと思っています。リストはその時に考えられる殻みたいなものを破る手段。「ここまで考えていいんだ」とこの本を読んで思って、「じゃあ、こういうこともできるんじゃないか」「ああいうこともできるんじゃないか」って生き方のストレッチができた感じです。可動域を広げられたんですよね。
いろんな人と話すというのも生き方のストレッチになります。「こういうことをやってみない?」とまわりから言ってもらうことで、そういう考え方や仕事も有り得るなと思うことって多い。自分で考えられることはたかが知れているので、いろんな人との会話の中に面白いアイデアが落ちている気がします。
「はたらく」を考える本(4)~(7)|『インターネット的』『新ネットワーク思考』『フラット化する世界』『ジンメル・つながりの哲学』
先の3冊で頭のストレッチをすませ、漠然と思い描いていたものも十分形になるんじゃないかなと思った時に、「世の中のことを知る」という意味でこの4冊に影響を受けました。
僕はずっと建築や不動産の分野で働いていたんですけど、インターネットが面白そうだなと思ったのはこれらの本のおかげ。インターネットのことやコミュニケーションの方法、コミュニティのあり方を知ったし、人と人とのつながりがインターネットによって変わっていくんじゃないかという予感もありました。
建築や不動産というリアルな場所に携わるとしても、多分インターネットっていうものは避けて通れないなと思ったんですよね。インターネット的な動き方っていうのがやっぱりあるんです。今では当たり前のことですけど、誰でもサイトを作ることができるし、どんどん人とつながることもできる。今はさらに進んでいて、誰もが主人公になっている気がします。昔は有名人がひと握りしかいなくて、(情報を)発信する側と受け取る側というのが明確に分かれていた気がするんですけど、誰もが発信するようになり、かつその中心が多極型になってきている。世間に知られていなくても、ごく一部の誰かにとってはヒーローになっている人がいるんです。建築でいうと、巨匠みたいな人だけじゃなくて建築家のあり方も多様になってきているし、何なら素人も建築に関わるようになっていく。そういう関係性が今後すごく増えていくだろうって考えた時に、それを見ているよりはやった方がいいだろうって思えたんですよね。だから「日本仕事百貨」を立ち上げる際もインターネットを介してやった方が絶対面白いなと思ったんです。