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超常現象、本格ミステリーで決着 今村昌弘さん「魔眼の匣の殺人」

今村昌弘さん

 ミステリー作家の今村昌弘さんが、2作目となる新刊『魔眼の匣(はこ)の殺人』(東京創元社)を出した。2017年に鮎川哲也賞を受賞し、年末恒例のミステリーランキングで3冠に輝いたデビュー作『屍人荘(しじんそう)の殺人』から約1年半。待望の続編で、シリーズとしての枠組みを明かす。

待望の続編 非常識な世界でリアルな謎解き

 ペンション「紫湛荘(しじんそう)」で起きた前作の事件から約3カ月後。辛くも生き残った神紅(しんこう)大学ミステリ愛好会の葉村譲(はむらゆずる)と探偵少女の剣崎比留子(けんざきひるこ)は、事件の黒幕とみられる謎の組織「班目(まだらめ)機関」につながる情報を手に入れる。それは、機関がかつて超能力を研究していた施設が人里離れた村にあるというものだった――。

 前作の「その後」を描く物語だが、意外にも「実は、続編を書くことはまったく想定していなかった」と打ち明ける。『屍人荘』は続編をにおわせるような結末だが、それは「作品世界が一冊の本のなかで完結してしまうことに抵抗がある」から。ミステリーとして決着はつけつつ、「この後どうなったんだろうと、読者の想像をかき立てる余地を残しました」と話す。

 『屍人荘』は、吹雪の山荘や嵐の孤島ではない、特殊な状況下で作られる「クローズド・サークル」が注目を浴びた。その鍵を握り、「非現実的な設定に説得力を持たせるために生み出した」のが、班目機関だった。常識では考えられない技術をも実現させてしまう正体不明の組織。それにより、超自然的な設定と、謎解きを重視する本格ミステリーとを両立させた。

 続編となる本作も、「同じ舞台設定のまま中身のガジェット(小道具)を代えよう」と構想。そこで選んだのが、超能力としての予言だった。

 組織の秘密に迫るため村へと赴いた葉村たちは、予言者として恐れられる一人の老女と出会う。「サキミ」と呼ばれるその人物は、村で〈男女が二人ずつ、四人死ぬ〉と予言していた。実際に死者が出始めるなか、葉村は前回の事件を前提にこう考える。

 〈既存の常識に当てはまらないからといって否定するのは、論理的でなくなってしまったのだ〉

 これまでも超常現象を取り入れたミステリーは書かれてきたが、「実はインチキだったとか科学的な根拠があったとかいうことを探偵役が明らかにするものが多かった」。だが、「オカルトをオカルトのまま我々が住んでいる世界に持ち込んで、サスペンスではなく、本格ミステリーで決着をつけようっていう作品ができないか。それが、自分の目指しているミステリーのかたちなんです」と語る。

 『屍人荘』は今年中の実写映画公開が予定され、シリーズ3作目にも期待がかかる。気鋭の新人作家がこだわるのは、「誰でも読める本格ミステリー」だ。「消去法推理や論理の積み重ねをきちんとしつつ、それを読む人に苦労させない。ミステリーファンの裾野を広げるのが、僕の役割かなと思っています」 本体1700円。(山崎聡)=朝日新聞2019年3月25日掲載