「動物園から未来を考える」書評 自然への本当の愛着をめざして
ISBN: 9784750515670
発売⽇: 2019/02/21
サイズ: 21cm/278p
動物園から未来を考える ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン [著]川端裕人、本田公夫
最近頭にきたことは、娘たちがよく登っていた近所の公園の松に「木に登るのはやめましょう」という看板が巻かれたことだ。区の公園課に言ったが何も変わらない。子供に人気の木だったから善意の人が「危ないから登らせるな」とでも苦情を入れたのかもしれない。私がまず思ったのは、すでにその人自身が木に登った経験がないのではないか、ということだ。でもこうやって禁止ばかりを増やして、都会で木に登れない子どもが増えることで、この社会はよくなっていくのだろうか。
本書は米国のブロンクス動物園の見せ方、伝え方についての本だ。展示部門のスタジオマネジャーを務める本田公夫を川端裕人が取材し、日本の動物園との違いや、展示のあり方について掘り下げていく。動物園は繁殖に力を入れ始める1970年代まで、類人猿の子一頭のために、群れごと殺すというやり方でようやく捕獲していたという、動物園史の予想以上の闇にも驚かされるが、そうした時代を経ていまや「種の保存」が動物園の一つの役割として認識されてきた。それは自然環境が脅かされてきたことの証しでもあり、展示のメッセージも「自然保護の大切さ」をいかに伝えるかに力が注がれている。
興味深いのは川端が前著『動物園にできること』でも触れた「エコフォビア(環境恐怖症)」だ。幼少期の自然体験が不足したまま、知識として自然保護や環境の危機ばかりをつめこまれると人は、やがて情報を遮断するようになってしまう、というのが環境教育家ソベルらの警鐘だ。子供たちが自然に対して本当の愛着を深められるような自然体験を取り込めないか、すでに動物園は試行錯誤し始めている。しかし、お決まりのように「それは安全なのか」というリスクが指摘される。答えの出ない問題の一つかもしれない。それでも「誰かが言っていかないと」という本田の言葉にかすかな希望を感じた。
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かわばた・ひろと 1964年生まれ。作家▽ほんだ・きみお 1958年生まれ。米動物園で解説展示などをデザイン。