アルティストとは仏語で芸術家の意。しかし、本書で意味するところは少し違う。
舞台は、第一次世界大戦の傷跡(きずあと)が色濃く残るフランスの小さな町。多くの若者が戦死し、不景気で復興もままならず、人々の暮らしは楽ではない。不満のはけ口としてユダヤ人への差別意識が根を張り出し、隣国ドイツからはナチスの台頭が伝えられる。
そんな状況下、懸命に生きる人々の姿を細密画のようなタッチで丁寧に描く。一応の主人公はジャグリングが得意な少年モモだが、町で暮らす老若男女すべての群像劇と言えるだろう。ボウリング場の支配人、郵便配達の少女、瓦職人の父子、夫を戦争で亡くしたタイピスト、孤児院の修道女……。誰もが時代の流れに翻弄(ほんろう)されながらも地道に己の職分を全うし、他者の尊厳を傷つけない。それが本作の“アルティスト”たちだ。
説明的セリフを排し、情景や表情で物語る。その寡黙さが逆に雄弁。宿敵同士のサッカーチームのファンゆえ犬猿の仲の男2人が道路を挟んで営むカフェは分断と偏見の象徴か。その両店があるきっかけで結びつく場面は、偏狭の愚かさと寛容の豊かさを一目瞭然に知らしめる。新人とは思えぬ匠(たくみ)の技に脱帽だ。=朝日新聞2019年4月20日掲載
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