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「選挙制を疑う」書評 民主主義の危機への治療法示す

評者: 間宮陽介 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月01日
選挙制を疑う (サピエンティア) 著者:岡﨑晴輝 出版社:法政大学出版局 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784588603587
発売⽇: 2019/04/06
サイズ: 20cm/233,11p

選挙制を疑う [著]ダーヴィッド・ヴァン・レイブルック

 「民主主義には二度万歳をしよう。一度目は、多様性を許すからであり、二度目は批判を許すからである。ただし、二度で充分。三度も喝采する必要はない」。こう書いたのはイギリスの作家E・M・フォースターである。この作家にとって、三度の喝采に値するのは、ただ「わが恋人、慕わしき共和国」のみであった(小野寺健編訳『フォースター評論集』岩波文庫)。
 昨今の民主主義批判にはもはや審美的要素はない。批判は民主主義の根底に突き刺さり、万歳二唱どころかせいぜい一唱、果ては民主主義否定にまで及ぶ勢いなのである。政治家は国民を代表していない、民主主義はまどろっこしく、効率性に欠ける。このような疑念の隙間から、決められる政治、強い指導者への願望が高まっていく。
 政治的指導者は国民を真に代表していないとする「正統性」の危機は、指導者と国民を一体化させるポピュリズムに力を与え、他方の「効率性」の危機は専門家支配、すなわちテクノクラシーの台頭を促す。このような民主主義の根底に関わる疑惑を、本書の著者は「民主主義疲れ症候群」と呼んでいる。
 今日、世界に蔓延する民主主義の危機はどこに淵源を持つのか。政治家の人材払底にか。民主主義それ自体にか。それとも民主主義の一形態である代議制民主主義にか。このように順次問い質していった揚げ句、危機の原因は選挙型代議制民主主義にあるとの診断が下される。そしてその根本的な治療法として提案されるのが、抽選と投票による代議制、すなわち二重代議制である。
 これは意表を突く結論である。われわれは民主主義といえば条件反射的に選挙を思い浮かべる。しかし古代ギリシャ以来の民主制の歴史を見れば、抽選による民主主義は決して夢物語ではない。選挙がイメージ操作の対象と化している今日、本書の主張は一考に値するだろう。
    ◇
David Van Reybrouck 1971年ベルギー生まれ。作家。原著はオランダ語。仏・伊・英・独語などに翻訳された。